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Post Date:2025年11月19日 

ソフトニブとフレックスニブの違い ── そしてステンレスソフトニブの実力

WANCHER 世界樹 サンダルウッド + ステンレスソフトニブ

スチールペン先のソフトニブ(軟調ペン)ってどうなんだろう――。

鉄ニブで軟調… “鉄軟”!? そんな言葉遊びと好奇心から、WANCHER「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」を購入しました。

万年筆を使い慣れてくると、次第に“軟らかいペン先”に惹かれるようになります。しかし、金やイリジウムの価格高騰もあり、金ペンの価格は年々上がるばかりで、気軽に手を伸ばしにくい存在になってきました。

それでも多くの万年筆ユーザーは、あえて柔らかいペン先を求め続けます。

では、なぜ私たちはペン先に“しなり”や“柔らかさ”を求めるようになるのでしょうか。


ソフトニブとフレックスニブは違う

「軟らかいペン先」と聞くと、どうしても同じようなものとして語られがちですが、ソフトニブフレックスニブは構造も役割もまったく異なります。

どちらも“しなるように見える”という点では共通していますが、書き心地や線の変化、使い方はまったく別の方向を向いています。

ソフトニブは筆記時の“クッション性”や“しなやかさ”を楽しむためのもの。一方、フレックスニブは筆圧による線の太細を大きく生み出し、筆のような表現をするためのものです。

見た目は似ていても、実は書き味も目的も大きく違うのです。


ソフトニブの特徴

ソフトニブは、筆圧をかけずに書いたときに“わずかにしなる”ような感触を持つペン先です。最大の魅力は、書き味がやわらかく、指先に心地よい弾力が返ってくること

線の太さが大きく変わるわけではありませんが、さりげない揺らぎが文字に自然な表情を与えます。筆記のリズムに寄り添ってくれる、独特の“しっとり感”も魅力のひとつです。

具体的には次のような特徴があります。

  • 軽い筆圧で書ける

    紙に押し付けなくてもインクが自然に落ち、手が疲れにくい。

  • しなやかな弾力がある

    ペン先がほんの少しだけ沈み、書き始めや書き終わりがやわらかな表情になる。

  • 線の太さはほとんど変わらない

    線の強弱を楽しむためのニブではなく、書き心地のやわらかさにフォーカスした構造。

  • 日常筆記に向いた穏やかな性格

    手帳、ノート、日記などの普段使いで真価を発揮する。

  • 日本語の筆記に相性が良い

    とめ・はね・はらいの微細な動きを、自然な揺らぎとして受け止める。

ソフトニブは現代の硬めのペン先の中で、万年筆らしいしなやかさを味わえる存在ですが、線の強弱を楽しむためのものではありません。

その役割はあくまで、“書くことそのものを気持ちよくしてくれるニブ” にあります。

また、軟調ペン先を使うようになって初めて、“筆圧をかけないで書く”という万年筆本来の書き方を実感できました。

力を抜いて書けるので手が疲れず、自然と滑らかに筆が運ぶ――そんな心地よさを教えてくれるのがソフトニブです。

日本の万年筆メーカーでは、下記のペン先でやわらかさを楽しめます。

メーカーモデルニブ
パイロットカスタムシリーズSF(細軟) / SFM(中細軟) / SM(中軟)
ELABO(エラボー)EF / F / M / B
プラチナ万年筆Century #3776SF(ソフトファイン:細軟)
セーラー万年筆プロフェッショナルギア21K大判ニブ

フレックスニブの特徴

フレックスニブは、筆圧をかけたときにペン先のスリットが大きく開き、線の太さが変化するように設計されたペン先です。

繊細な細線から力強い太線までを一本で描けるため、“線の表情を楽しむためのニブ” と言えます。

ソフトニブの「しなやかな書き心地」とは違い、フレックスニブは線そのものの強弱やインクの濃淡による変化をつけることを目的としています。

これは、日本語の美しさを支える「とめ・はね・はらい」「縦横のメリハリ」「文字の抑揚」 といった要素とも相性がよく、筆で書いたときのような“息づかい”が生まれるのがフレックスニブの魅力です。

具体的には次のような特徴があります。

  • 筆圧でスリットが開く構造

    ペン先のスリットが大きく広がり、細い線から太い線まで、明確なラインバリエーションが生まれる。

  • 線の強弱(太細)がはっきり出る

    アップストロークは細く、ダウンストロークは太く。筆記体や装飾文字だけでなく、日本語の「とめ・はね・はらい」を美しく見せる。

  • 少ない筆圧でしなる

    良質なフレックスニブは、わずかな力で自然に開くため、太線も滑らかに出せる。

  • 使いこなすには慣れが必要

    長く筆圧をかけ続けると“レールアウト”(インク切れ)が起きやすく、書き手のコントロールが求められる。

  • 文字に強い表情をつけられる

    行書、筆記体など、書く文字に動きや抑揚を持たせたい場面 で力を発揮する。

フレックスニブは、ソフトニブのような“しっとりした書き心地”ではなく、“線の変化を積極的に楽しむためのニブ” です。

そのため日常筆記よりも、「書く表現」や「筆跡のデザイン」に興味がある人に向いています。

日本の万年筆メーカーでフレックスニブを現行ラインナップとして提供しているのは、PILOTだけです。FA(Falcon)ニブは、毛筆のように線の強弱がはっきり出る希少な存在で、日本語の筆記にも表現力を与えてくれます。

PILOTの下記モデルでFA(Falcon nib)が選択できます。

モデルFAニブ選択可ニブサイズ特徴
Custom 742#10軽快・扱いやすい
Custom 743#15安定感・筆感が最も強い
Custom Heritage 912#10現代的デザイン・やや軽め

歴史的に見れば、つけペンはフレックスニブだった

万年筆が登場する以前、筆記の主役はディップペン(つけペン)でした。

当時はスパンサリアンやコッパープレートなど、線の太細がはっきりした筆記体が一般的で、その書体を美しく書くためには 柔らかくしなるペン先=フレックスニブ が欠かせませんでした。

スパンサリアンとコッパープレート
Created by GPT5

薄いスチールで作られたペン先は、筆圧をかけるとすぐにスリットが開き、細い線から力強い太線まで自在に描けるようになっていました。


最初の万年筆も、実はフレックスニブだった

万年筆の原型をつくったウォーターマン(WATERMAN)も、例外ではありません。19世紀末~20世紀初頭にかけて作られた初期のウォーターマンには、つけペン文化を引き継ぐ、柔らかくしなるフレックスニブ が搭載されていました。

その代表例が、ヴィンテージ万年筆として今も人気の WATERMAN #52

  • 1920年代の代表モデル
  • 黒のハードラバー軸にゴールドのクリップ
  • ペン先は柔らかくしなる14Kゴールド
  • わずかな筆圧で太線が生まれる、本物のフレックス

現在でも「真のフレックス(True Flex)」の象徴として語られるほど、しなり・反発・線の強弱の美しさ を備えた名品です。

こうした欧米のペン文化の影響は、日本の万年筆づくりにも及びました。

国産万年筆メーカーであるパイロット、プラチナ、セーラーの黎明期(1920〜1930年代)でも、柔らかめでしなる金ニブ が数多く作られており、当時は今よりずっと“しなりのあるペン先”が一般的でした。

しかし、戦後になるとボールペンの普及とともに筆記習慣が大きく変化します。

筆圧を書き込む筆記具が主流になったことで、万年筆にも耐久性や安定性が求められ、徐々に硬いペン先が主流へと移っていきました。


まずは、軟調ペン(ソフトニブ)から――筆圧を抜く書き方を身につける

つけペンの時代から受け継がれた“しなるペン先”は、文字に表情を与える一方で、扱いには繊細さが求められます。

現代のように筆圧を書き込む筆記具に慣れた私たちにとって、いきなりフレックスニブを使いこなすのは難しいのが正直なところです。

そこで大きな助けになるのが 軟調ペン(ソフトニブ) です。

ソフトニブは、フレックスのように派手に開くわけではありませんが、わずかな“しなり”と“弾性”を通して 筆圧を抜いて書く感覚 を自然に教えてくれます。

自分も PILOT Custom Heritage 912 SM(中軟)を使って、初めて、

「あ、力を入れないほうが万年筆は気持ちよく書けるんだ」

という感覚を実感できました。

Custom Heritage 912 SM

強く押し付けるクセが残っていた頃はペン先が引っかかることもありましたが、力を抜くと紙を滑るようにペン先が動き、手が疲れず、書くことそのものが軽くなるのを感じました。


すべてのソフトニブが“筆圧からの転換”に向くわけではない

軟調ペンは万年筆本来の書き方を教えてくれる存在ですが、プラチナ#3776 SF やパイロットの ELABO のような大きくしなるニブは、強い筆圧で育ってきた人にとって扱いが難しい場合があります。

  • ペン先が沈み込みすぎる
  • 思わぬ方向へしなって不安定に感じる
  • 力を抜く前に“書きづらい”と感じてしまう
  • 書き癖が強いほどコントロールが難しい

筆圧のある書き方から、いきなり 非常に柔らかいソフトニブ に移行すると、「気持ちよく書ける」よりも前に “扱いづらさ” を感じてしまいます。

その結果、「ソフトニブって書きづらい」という誤解につながることもあります。

これでは本末転倒です。


"筆圧を抜く"ための最良の入口は、穏やかな軟調ニブ

特にオススメなのが、パイロットの Custom 742 または Custom Heritage 912 に搭載される10号ペン先の SM(中字・軟)。 やわらかさは十分にありながら、しなりすぎず、適度なコシを保つため、筆圧が自然に抜けていく“絶妙なバランス”を持つ軟調ペン先です。

また、万年筆価格が高騰している昨今、742や912が予算的に厳しい場合は、より手頃な Custom 74 SM も候補に入ります。

パイロットの“やわらかいけれどコシがある” バランス型のソフトニブは、

  • 力を抜いたときに気持ちよく書ける
  • 書くほど自然に筆圧が抜ける

という特性があり、筆圧のある書き癖を持つ現代の書き手にとって、“力を抜いて書く万年筆らしい書き方”へ移行するための、ちょうど良いステップになります。

そして、一本目の軟調ペン先を選ぶのであれば、万年筆らしい線の伸びやかな表情をもっとも素直に味わえる SM(中字・軟) が最適です。

筆圧ゼロで"ふわっと書き"、紙の上を“無重力散歩”するような心地よさを味わってみてください。


筆圧を抜くための万年筆の持ち方

軟調ペンを使うと筆圧を抜いて書く感覚がつかみやすくなりますが、そもそも “万年筆の持ち方” が間違っていると、どんなペン先を使っても筆圧は抜けません。

繰り返し掲載していますが、とても大事なので改めて記しておきます。

万年筆の持ち方
  1. 手の力を抜き、手首は 90° くらいの角度にする
  2. 中指の指先の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印(ロゴ)は必ず上向き
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

下記がGPT5で生成した正しい万年筆の持ち方です。

万年筆の正しい持ち方
万年筆の正しい持ち方:Created by GPT5

筆圧をかけない書き方をするには、万年筆を軽く持つことが何よりも重要です。強い筆圧の原因の多くはペンを強く握る持ち方にあります。

下の例では、ペンを持つ指に力が入りすぎて、人差し指が反り返ってしまっている悪い例です。実は、自分も以前はこのような持ち方をしていて、無意識に強く握り込んでいました…。

ペンを持つ手に力が入ってしまっている例:Created by GPT5

書道家・大江静芳氏の動画では、万年筆の持ち方がとても分かりやすく解説されています。文字や写真だけではイメージしづらい方は、こちらの動画を参考にしてみてください。


ソフトニブとフレックスニブの違いをまとめると

万年筆に慣れてくると、自然と“軟らかいニブ”に魅力を感じるようになります。ソフトニブは、筆圧をかけずに書くという万年筆本来の心地よさを味わえるニブです。

一方、フレックスニブは線の太さを大きく変化させることができ、筆のような抑揚で日本語を美しく表現できるニブです。

以下にソフトニブとフレックスニブの違いをまとめます。

特徴 ソフトニブフレックスニブ
スリット開き幅少ししなるが、スリットは大きく開かない筆圧で大きく開き、線幅が大きく変化する
筆跡の特徴線幅の変化は控えめで、安定した整った筆跡細線〜太線の差が大きく、表情豊かな筆跡になる
筆圧の必要度筆圧をかけずに軽く書ける線の変化を出すには筆圧コントロールの習熟が必要
インクフロー均質で安定しており、日常筆記に向く開きすぎるとインクが追いつかずスキップすることがある
書き味柔らかくしなやかな書き味で扱いやすい表現力は高いが、使いこなしには慣れが必要

WANCHERのステンレス・ソフトニブとは

WANCHERの 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を購入したのは、

「スチール製のソフトニブって実際どうなんだろう?」

という純粋な興味からでした。

結論としては、

価格を抑えながら、ソフトニブ的な“しなり”を体験できる貴重な選択肢

だと感じています。

#6 JOWO・ステンレスソフトのしなり具合

「#6 JOWO・ステンレスソフト」は、ペン先の両側にサイドカットがあり、楕円に削られています。このサイドカットされた部分より先で曲がる(しなる)構造になっています。

字幅はF:細字です。

#6 JOWO・ステンレスソフト

ソフトニブなのでしなりはしますが、スリットが大きく開くわけではありません。そのため、フレックスニブのようなダイナミックな線の強弱ではなく、“さりげない表情の変化” にとどまります。

#6 Jowo ソフトニブ の筆致

WANCHERのステンレスソフトニブは、金ペンのようなしなやかな弾力とは違いますが、スチールとは思えない“意外な気持ちよさのあるしなり” を持っています。

  • 押し込みすぎない範囲で、ほどよくしなる
  • スチールとは思えない軽やかなしなり
  • インクフローもよく、“紙の上を滑る感覚” を味わえる

といった特徴があり、WANCHER のステンレスソフトニブは、

「万年筆らしい柔らかさを味わいたい人」に最適で、同時に “筆圧を抜く書き方” を身につけるステップとしても優れた一本 と言えます。

金ペンの軟調ニブやフレックスニブへ進む前の、現実的で、楽しい入口のひとつ となるペン先です。


WANCHERのソフトニブの購入は

WANCHER公式サイトでは、世界樹カレイド のペン先として「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を選択できます。このオプションで購入すると、金ペン軟調ニブで比較的手頃な PILOT Custom 74 SM(中軟)よりも低価格で“ソフトな書き味”を試せる点が魅力です。

また、すでに JOWO #6 に対応した万年筆 を持っている場合は、交換用として 「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」 を購入し、ペン先を付け替える方法もあります。

※ 国産では WANCHER、海外では TWSBI が、JOWO #6 に対応した万年筆をラインナップしています。

ただし、万年筆によっては ペン芯の形状や個体差により相性が出る場合 があるため、ニブ交換は自己責任でお願いします。

残念ながら自分が WANCHER 世界樹・サンダルウッド を購入したときは、オプションでペン先をステンレスソフトに変更できませんでした。そのため、交換用の 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を別途購入して付け替えて使っています。


ステンレス・フレックスニブはどうなのか?

ステンレス・ソフトニブの書き心地が想像以上に良かったので、次に気になっているのがステンレス製のフレックスニブです。

現在、WANCHERの公式サイトには#6 ニブ・ワンチャー真玉ストリームニブ という、ステンレスのセミフレックスサンセットニブをブレード構造に改良したフレックスニブが掲載されています。

ただし残念ながら、まだ販売前の段階。

ソフトニブが先行して発売された流れを見ると、いずれ販売される可能性は高く、楽しみに待ちたいところです。

一方、Amazonには、MONTEVERDE(モンテベルデ)製の「#6 JOWO 用ステンレス・フレックスニブ」が販売されています。

もちろん、書き心地だけで言えばPILOT Custom 743 の FA(Falcon)ニブのほうが上質であることは間違いありません。

それでも、

「スチールでどこまでフレックスを再現できるのか?」

という好奇心は大いに刺激されます。

嗚呼、物欲の神様……。


まとめ:自分だけの軟調ペンを選ぶ楽しみ

万年筆を使い続けるうちに、書き心地の違いや、字の表情の変化 に自然と目が向くようになります。

その入口として、ソフトニブ(軟調ペン) が最適です。

しなりすぎず、筆圧を抜いたときの心地よさを教えてくれる——それは現代の硬めの万年筆では得られない、万年筆らしい魅力です。

一方で、文字の表情を大きく変えたいなら フレックスニブ という選択肢があります。線の太さが変わり、日本語にも筆記体にも、筆のような抑揚を与えてくれる特別な存在です。

そして今回のような、JOWO #6 のステンレスソフトニブ は、金ペンへ進む前の“現実的で楽しいステップ”として、とても良い体験を与えてくれます。

スチールでもしなる。けれど、扱いやすい。その意外性こそが、このニブの魅力と言えるでしょう。

柔らかさを知ることは、書く楽しさを広げること でもあります。

あなたも、自分にとって心地よい一本を見つけてみてください。

Post Date:2025年2月9日 

鉄ニブの限界を超えた先に広がる表現の世界 – 渓流ニブと小太刀ニブの魅力

WANCHER 誠エボナイト マットブラック - 小太刀ニブ

万年筆を使ってみたい」と思った瞬間が万年筆の深い世界の入り口です。書きやすさを求めて選んだ一本は、「字の練習に使うから」という大義名分で価格のハードルをクリア。しかし、ほどなくして「もっと美しい字を書くために」と、次の一本が欲しくなる…。こうして気づけば、万年筆沼にどっぷり浸かっているのではないでしょうか。

そんな沼の深みで見つけたのが、日本語を抑揚のある美しい線で表現するために作られた、WANCHER(ワンチャー)のオリジナルニブKEIRYUニブ - 渓流でした。繊細な筆遣いが求められる和の書体にも適した特別なペン先です。

KEIRYU ニブは、細く凛とした線や太く力強い線をペン先の角度によって生み出します。それぞれの線を一つの文字としてシームレスに繋ぎ合わせるには、少々慣れが必要かもしれません。 ぜひ、しばらく KEIRYU ニブで遊んでみてください。使いこなすことでより楽しさが増し、自由に操れるようになれば自分でも驚くようなイキイキとした文字が表現できます。

【引用】渓流 - Keiryu Nib | Wancherpen Japan

実際に試してみると、ステンレスニブとは思えないほどの表現力の幅に驚かされます。軽いタッチでは繊細な線を引き、筆圧をかけることで力強い筆致へと変化する。この筆のような書き心地こそが、KEIRYUニブならではの魅力です。

一方、KEIRYUニブが筆のような柔らかい表現を得意とするのに対し、鋭くシャープな筆致を追求した特殊ニブも存在します。それが小太刀(こだち)研ぎです。セーラー万年筆の長刀研ぎを参考に、The Nib Shaperの長原幸夫氏が開発したこのニブは、細字・中字・太字への研ぎ出しが可能で、WANCHERの一部の万年筆で選択できます。


渓流ニブと小太刀ニブの違い

WANCHERと長原氏が共同で生み出した渓流ニブと、セーラー万年筆の長刀研ぎの技術を活かして作られた小太刀ニブは、どちらも日本語の美しさを引き出す特別なニブです。しかし、その「抑揚」の表現範囲に違いがあります。

渓流ニブは、筆圧に応じて滑らかに強弱が変化し、太くダイナミックな線も、柔らかくしなやかな線も自在に描けます。一方、小太刀ニブは、鋭くシャープな筆致が特徴で、細かい文字や繊細な筆運びに適しています。

この違いを生み出しているのが、それぞれのペンポイントの形状です。

小太刀ニブと渓流ニブのペンポイントの比較

渓流ニブ(写真 右)は、ペンポイントが大きく丸みを帯びた「かまぼこ型」の形状をしており、滑らかな線と豊かなインクフローを実現しています。一方、小太刀ニブ(写真 左)は、先端が細長く鋭利な矢尻のような形状で、フラットに研ぎ出されています。そのため、紙に触れる面積が小さく、繊細でシャープな線を生み出します。

渓流ニブと小太刀ニブの文字比較

上が渓流ニブ、下が小太刀ニブで書いています。


渓流ニブ – 筆のような抑揚を楽しむ特別なペン先

渓流ニブは、渓流の水の流れのように滑らかで、自然な抑揚を生み出すペン先です。ペン先の角度や筆圧に応じて線の太さが自在に変化し、豊かで立体感のある筆記を楽しむことができます。

渓流ニブの特徴は以下の通りです。

  • 柔軟な表現力
    スチールニブでありながら、筆圧や角度に応じて線の太さを調整可能
  • 湾曲した大きなペンポイント
    ペンポイントがわずかに湾曲したかまぼこ型の形状により、滑らかな筆記感と自然な強弱を表現
  • 中〜大きめの文字に最適
    特に漢字の「ハライ」「トメ」「ハネ」をダイナミックに表現

渓流ニブは、漢字を流麗に書きたい方や、線の表情を楽しみたい方に最適です。


購入方法

WANCHERでは、JOWO #6ニブを搭載した一部のモデルで、購入時にオプションとして、KEIRYUニブ・渓流が選択できます。料金は+7,700円です。

例えば「誠エボナイト」で渓流ニブを選択すると、税込で29,700円となります。

誠エボナイト     22,000円
渓流ニブ     7,700円
_________
合計     29,700円

「誠エボナイト -峰-」のペン先は渓流ニブのみで、税込35,200円です。

また、15,000円(税別)以下のJOWO #6ニブ搭載モデル(例:世界樹万年筆)では、購入時にKEIRYUニブを選択できませんが、別売の渓流ニブを購入して交換することが可能です。

「世界樹万年筆」と別売の交換用「渓流ニブ」の合計でWANCHER楽天公式であれば、税込で20,350円となります。

世界樹万年筆     11,000円
渓流ニブ(別売)     9,350円
_________
合計     20,350円

さらに、Amazonで検索するとMonteverde(モンテベルデ)Conklin(コンクリン)は、交換ニブとしてJOWO #6があるので、渓流ニブに交換できる可能性があります。試してはいないので、あくまで自己責任で、、。


小太刀ニブ – 漢字を美しく刻む鋭利なペン先

The Nib Shaper創業者・長原氏が、セーラー万年筆の長刀(なぎなた)研ぎに独自の改良を加え、より漢字を美しく書くために開発した研磨方法が小太刀(こだち)研ぎです。WANCHERをはじめ、複数のメーカーが長原氏の監修を受けて小太刀ニブを販売しています。

WANCHERでは、18金ペン先への変更が+15,000円(税別)で、小太刀ニブへの変更は+12,000円(税別)です。「スチールニブなのに?」と感じるかもしれませんが、鉄ニブとは思えない書き味を体験すれば、その価値に納得できるはずです。

小太刀ニブには以下のような特徴があります。

  • 鋭利なペンポイント
    矢尻のように細長く、フラットに研がれた形状
  • 線のメリハリ
    縦線と横線の太さのコントラストが大きく、立体感のある文字が書ける
  • 漢字に最適
    トメ、ハネ、ハライを精密かつ力強く表現可能
  • 力強い書き心地
    鋭い書き出しで、堂々とした文字の印象を与える

小太刀ニブは文字のメリハリや正確さを重視する方におすすめで、特に漢字の美しさを追求したい方に最適です。ただし、楽天公式では小太刀ニブの太字しか取り扱いがありません。

KEIRYU・KODACHI(渓流・小太刀)を選択すると、22,000円の誠エボナイトが35,200円になります。

誠エボナイト     22,000円
渓流・小太刀ニブ     13,200円
_________
合計     35,200円

楽天公式には以下のように記載されているので問い合わせてみてください。

※販売中のニブとは異なるお色やサイズをご希望の場合は、変更が可能なものもございますので、お問い合わせください。

【引用】WANCHER楽天公式 - 誠エボナイトマットブラック

価格はさらに高くなりますが、WANCHERでは18金の小太刀ニブも選択できます。「不思議の国のアリス」のハートの女王をモチーフにした「キングオブハート」は、セーラー万年筆のプロフェッショナルギアをベースにしています。このモデルでは、小太刀ニブのF(細字)、M(中字)、B(太字)が選択可能です。

小太刀ニブを選ぶならWANCHER公式サイトで購入した方が、より多くの選択肢があります。下写真はWANCHER公式で購入した「誠エボナイト マットブラック 小太刀研ぎ(中字)」です。

WANCHER 誠エボナイト マットブラック - 小太刀研ぎ(中字)

渓流ニブ vs 小太刀ニブ - あなたに合うのはどっち?

どちらのニブが良いかは、個人の好みや筆記スタイルによって異なります。渓流ニブは、かなり太めの線となるため、細かい文字を書くのには向いていません。

共通しているのは、ともにインクフローが良く、滑らかな書き心地を持つペン先であることです。しかし、なぜか同じインクを使っても、渓流ニブと小太刀ニブは、他の万年筆で書いたの比べてインクが薄いように感じます。気のせいかと書いた文字を拡大すると「ムラ」があるのがわかります。この「ムラ」がインクを薄く感じさせているのだと思います。

渓流ニブ、小太刀ニブで書くとインクが薄くなる?
  • 渓流ニブ:滑らかで、表現力豊かな筆記を楽しみたい方
  • 小太刀ニブ:漢字を美しく書きたい方、力強い文字を書きたい方

小太刀ニブは、太字・中字・細字の3種類から字幅を選ぶことができます。中字の字幅は、セーラー万年筆やパイロットの中字とほとんど変わりません。

渓流ニブと小太刀ニブは試し書きができないため、選択が難しいのですが、ペン先単体でも購入できる渓流ニブは、価格面も含めて小太刀ニブより入手しやすいというメリットがあります。


書くことを深める道具としての万年筆

万年筆は単なる筆記具ではなく、使い手の書く楽しさや表現の幅を広げる道具です。だからこそ、道具としての本質を見極め、適切なものを選ぶことが重要になります。

高価な万年筆が必ずしも良いとは限りません。しかし、ときに道具は自分を成長させてくれます。渓流ニブや小太刀ニブもそうした書くを楽しみ自分を成長させてくれる道具です。

金ペンや軟調ペン先を使ってきた方なら、長刀研ぎを一度は必ず気にされるのではないでしょうか。そのときの選択肢として、渓流ニブや小太刀ニブを考えてみるのも良いかもしれません。

ふと、渓流ニブと小太刀ニブの両方を購入することになるのであれば、セーラー万年筆の長刀研ぎを購入できたのでは?と思うこともありますが、沼にハマっているので仕方がありません。

ふと、渓流ニブと小太刀ニブの両方を買うなら、セーラー万年筆の長刀研ぎが買えたのでは?と思うこともあります。でも、仕方ありません。万年筆沼とは、そういうものです。

Post Date:2024年11月24日 

WANCHERの渓流ニブが描く新たな万年筆の世界

WANCHER 峰万年筆 - 渓流ニブ

軟調ペンからセーラー万年筆の日本語のためのペン先である長刀研ぎ(なぎなたとぎ)に興味を持ちました。しかし、今日日あまりにも高価で手が出ません。そんなときに出会ったのが、WANCHERの渓流ニブです。

渓流ニブは、日本の伝統と革新を融合した万年筆ブランドWANCHER(ワンチャー)のオリジナルペン先で、最終的な仕上げはペン先職人である長原幸夫氏によって行われています。長原氏はセーラーで長刀研ぎを復活させた故長原宣義氏のご子息で、同じく元セーラーの万年筆職人であり、現在はThe Nib Shaperとして活躍されています。

渓流ニブは、スチールニブなので軟らかいペン先ではありませんが、渓流のような柔らかな流れを筆跡に宿し、その独自の書き味は、日本語の美しさと表現力を際立たせてくれます。

渓流ニブを購入すると下記のカードが同梱されています。

WANCHER - KEIRYU / 渓流ニブ

渓流ニブとは?その独自性と特徴

多くの万年筆では、ペンポイントは半球形に仕上げられており、どの方向からも均一な線を引けるようにデザインされています。この形状は滑らかな書き心地を提供する一方で、線の強弱や表現力には限界があります。

一方、セーラー万年筆の長刀研ぎ(なぎなたとぎ)は、ペンポイントが長刀のように斜めに研ぎ上げられており、筆圧やペン先の角度によって線幅を大きく変化させる特徴があります。縦線を太く、横線を細く書くなど、日本語特有の書字美を追求した設計が施されています。

長刀研ぎ
【引用】Amazon - セーラー万年筆 長刀研ぎ

渓流ニブは、一般的な万年筆のペンポイントと長刀研ぎの中間的な形状です。ペンポイントはとても大きく、ペン先の先端は長刀研ぎほど鋭利ではありませんが、一般的なペンポイントよりも細長く研ぎ上げられています。また、ペンポイント全体がわずかに湾曲しており、この微妙なカーブが線の滑らかな流れを生み出す要因となっています。

WANCHER - KEIRYU / 渓流ニブ

裏から見ると刀というよりは山のようにもっこりとしています。

WANCHER - KEIRYU / 渓流ニブ

この形状により、渓流ニブはスチールニブでありながら、ペン先の角度や筆圧によって線の太さに抑揚をつけることができます。特に、漢字の「ハライ」「トメ」「ハネ」といった線の強弱が美しく表現され、文字に動きと立体感をもたらします。

長刀研ぎは使ったことがないのでわかりませんが、渓流ニブはスチール製のため金ニブほどの柔軟性はありませんが、職人の丹念な調整により、硬いスチールでも適度な柔軟性を持たせて「静かで滑らかな変化」を実現しています。

Wancher公式YouTubeの「Keiryu Nib Review:渓流ニブのレビュー」では、セーラー万年筆の長刀研ぎとWancherの渓流ニブのペンポイントの形状の違いが紹介されています。また渓流ニブでどんな字が書けるのかがイメージできます。


渓流ニブの書き味

渓流ニブの書き味は、軟調ペンのように筆圧によるダイナミックな線の変化とは異なり、より穏やかで優しい変化が特徴です。ペン先の角度や筆圧に応じて、繊細な線の強弱を表現することができます。

WANCHERの渓流ニブのページには「水面をすべるアメンボのように」スーと線が引けるとありますが、潤沢なインクフローと職人よって研ぎ澄まされたペン先で、紙の上を滑るように静かでスムーズな書き心地を実現しています。

字幅は太字程度で、小さな文字を書くよりも、中字からやや大きめの文字を書く際にその特性が最大限に発揮されます。漢字の「ハライ」や「トメ」など、筆致の美しさを求める文字に特に適しています。

渓流ニブの書き味についての動画もあります。


WANCHERの万年筆を選ぶ

渓流ニブを手に入れるには、以下の2つの方法があります。

  • WANCHERの万年筆に渓流ニブをカスタマイズ
    WANCHERの15,000円以上の万年筆(一部対象外)を購入し、追加料金7,700円(税込)で渓流ニブを選択できます。
  • 交換用ニブとして購入
    楽天やAmazonのWANCHER公式ストアで、交換用渓流ニブを9,350円(税込)で購入できます。 JOWO #6ニブの「世界樹 / カレイド」と交換できるので、価格を抑えて渓流ニブ万年筆が手に入ります。

峰万年筆もニブを外すことができます。

WANCHER - KEIRYU / 渓流ニブ

「世界樹万年筆 黒檀(エボニー)」に交換用ニブとして渓流ニブを購入することを検討していました。しかし、エボナイト素材に強く惹かれ、最終的には「ドリームペン/夢万年筆 -峰- 誠エボナイト」のマーブルパープルグレーを選びました。

完全に予算オーバーです、、。


エボナイトとは

エボナイトは、天然ゴムに硫黄を加えて加熱することで得られる、硬くて光沢のある素材です。かつては万年筆の軸材として広く使用されていました。しかし、より簡単に扱える樹脂素材が主流となる一方で、エボナイト特有の美しい光沢や温かみのある感触は多くの万年筆愛好家を惹きつけています。

WANCHER 峰万年筆 - 渓流ニブ

峰万年筆・マーブルパープルグレー

エボナイト軸の「誠エボナイト」はバランス型のデザインですが、峰万年筆は両端が平らなベスト型です。キャップ上部の突起(これが「峰」?)は、このモデルだけの特徴的なデザインです。

WANCHER 峰万年筆 - 渓流ニブ

峰万年筆のコンセプトは下記のようにあります。

この万年筆は成功への旅を意味し、一歩一歩高みへと続いていくイメージを元にデザインされています。キャップ上部の突起は私たちが目指す成功の頂を示しているのです。 「峰」という字は一般的に山の一番高いところを意味しますが、転じて技術や栄誉といった様々なもので頂点を極めたことへの比喩としても使われます。

人生の中において、世界の見方を変えるような地点に到達したいという願いをこめて、元々フラットだったキャップ上部を変更して今のデザインになりました。

【引用】峰万年筆 | Wancherpen Japan

峰万年筆は、マーブルパープルグレーマーブルグリーンの2色があります。前者は落ち着いた知性を感じさせる色合い、後者は自然の調和と生命力を思わせる鮮やかなグリーンが特徴です。

桐の箱に収められ、かなり仰々しい梱包なので開封の儀が恥ずかしい、、。

WANCHER 峰万年筆 - 渓流ニブ

コンバーターも付属しています。

WANCHER 峰万年筆 - 渓流ニブ

まとめ

WANCHERの渓流ニブは、日本の万年筆文化の伝統と革新が見事に融合した一品です。セーラーの長刀研ぎにインスパイアされつつも独自の形状を持ち、スチールニブでありながら日本語特有の線の抑揚を表現できる優れたパフォーマンスを提供します。職人の手による丹念な仕上げが、ペン先の滑らかな書き心地を実現し、使い手の筆跡に柔らかく美しい流れを生み出します。

また、渓流ニブのペン先を更にシャープに研いだ小太刀(こだち研ぎ)というオプションもあります。小太刀には細字、中字、太字の3種類があります。渓流ニブでは小さな字をかけませんので、ノートなどで使うのであれば、細字や中字が力を発揮します。

渓流ニブはWANCHERのブランド哲学を体現する特別なペン先です。このペン先は手書きの世界を広げてくれます。WANCHERの万年筆を手に取り、ペン先が生む新たな書き心地をぜひ体感してみてください。

スチールペンも侮れません。小太刀研ぎにも興味津々です、、。

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