「本を聴く」という楽しさを実感したきっかけは、audible で最初に聴いた『小説 秒速5センチメートル』でした。続いて『小説 言の葉の庭』も聴きました。
『小説 秒速5センチメートル』では、アニメ映画で各章の主人公を演じた声優が、その章のナレーションから登場人物のセリフまでを一人で朗読しています。モノローグの切なさや作品への没入感は、紙の本とはまた違った魅力がありました。
一方、『小説 言の葉の庭』は、映画と同じ6人のキャストが朗読を担当しています。まるでラジオドラマのようですが、BGMや効果音がないからこそ情景を自分で思い描くことができ、想像力を掻き立てられる魅力があります。
映像で知っていた作品だからこそ、朗読によって登場人物の心情がより深く伝わり、「本を聴く」という体験の面白さを初めて実感しました。
当時の audible は、毎月1冊を選ぶコイン制でした。現在のような聴き放題ではなく、お気に入りの作品を毎月1冊ずつライブラリに増やしていくサービスという印象です。
その頃には、audiobook.jp はすでに聴き放題サービスを提供していました。しかし、聴いてみたい作品が audible にあったことに加え、まだ「本は所有するもの」という感覚もありました。
そのため、当時は audiobook.jp を利用することはありませんでした。実際に登録したのは、それからずいぶん後のことです。
現在、日本でオーディオブックを選ぶなら、実質的には audible と audiobook.jp の二択です。
どちらも魅力的なサービスですが、実際に使ってみると得意なジャンルや使い勝手には違いがあります。本記事では、オーディオブックの魅力とともに、audible と audiobook.jp の違いを比較し、それぞれどんな人に向いているのかを紹介します。
本を聴くということ
文字情報の場合、単位時間あたりに取り込める情報量は、「読む速度」と「聴く速度」によって変わります。
「日本語文章の読み速度の個人差をもたらす眼球運動」では、大学生200名を対象とした調査で、読む速度の平均は 653文字/分と報告されています。
自分の読む速度はどれくらいなのだろうと思い、日本速読力協会の「読書速度ハカルくん」で計測してみると 1,425文字/分でした。ただ、これはかなり集中して読んだ結果です。
そこで、SP速読学院の読書速度の計測ページで、小説を読む程度の速度で試したところ、800 - 1000文字/分という結果になりました。こちらの方が、普段の読書速度に近いように感じます。
一般的な朗読速度を300〜350文字/分程度とすると、1.25倍速で約375〜438文字/分、1.5倍速で約450〜525文字/分になります。
速度だけを見ると、読む方が単位時間あたりに取り込める情報量は多くなります。
しかし、自分にとってのオーディオブックの魅力は、小説の世界観や情景を耳から味わえることです。そのため、小説は情景や間を損なわない1.25倍速で聴くことが多くなっています。
オーディオブックのメリットは?
オーディオブックの最大の魅力は、本を開けない時間を読書時間に変えられることです。通勤や散歩、家事など、本を読むことができない時間でも、本の世界を楽しめます。
読むことと聴くことは競合するものではなく、読書の時間を広げてくれる存在です。
実際に使ってみて感じた主なメリットは次のとおりです。
- 本を開けない時間も読書時間にできる
- 小説の世界により没頭できる
- 移動中や散歩中でも本を楽しめる
- 疲れているときに聴くことでリラックスできる
- 読書は目が疲れる、、
いちばん魅力を感じているのは、小説の世界により没頭できるということです。この魅力は、作品とナレーターの相性によるところが大きいのかもしれません。
前述した『秒速5センチメートル』では、アニメ映画版で各章の主人公を演じた声優が、そのまま各章を朗読しています。
- 第一話「桜花抄」:水橋研二(遠野貴樹役)
- 第二話「コスモナウト」:花村怜美(澄田花苗役)
- 第三話「秒速5センチメートル」:水野理紗(水野理紗役)
新海誠監督自身が執筆した『小説 秒速5センチメートル』には、アニメ映画版では描かれなかった重要なエピソードや設定が数多く追加されています。
小説版を聴くことで、声優の朗読を通して映画では描かれなかったキャラクターの心情や背景への理解が深まり、作品全体の印象も変わりました。
また、『犬に聞いてみろ』では、ドラマ版『花咲舞が黙ってない』で主人公・花咲舞を演じた杏さんが朗読を担当しています。
このように、audible では作品に合わせて声優や俳優、プロのナレーターが朗読を担当している作品も多くあります。小説を「本で読む」のではなく「耳で味わう」楽しさは、ナレーターの表現力によって大きく変わると感じています。
疲れているときでも本を楽しめることも、大きなメリットです。忙しいと本を読む時間がなくなりがちですが、単に時間がないだけでなく、疲れていると本を開く元気そのものがなくなることがあります。そんなときでも、耳からであれば本の世界に触れることができます。
また、目を休めながら本を楽しめることも、今では大きな利点だと感じています。これは加齢のせいかもしれませんが、文庫本を読むのがだんだん辛くなってきました。画面や紙面を見続けなくても本を楽しめるのは、オーディオブックならではの良さです。
オーディオブックを聴かない理由
オーディオブックは自分には向かないという意見も聞きますが、主な理由は次の3つに集約されるのではないでしょうか。
- 内容が頭に入りにくい
- 自分のペースで読めない
- ナレーターの好みに左右される
1. 内容が頭に入らない
テキストを目で追う読書とは異なり、音声では意識が離れた瞬間に聞き逃してしまいます。また、重要な箇所を読み返すように戻るには手間がかかるため、内容を理解しづらいと感じる方もいます。
ただ、これは慣れの部分も大きいのではないかと思います。本を聴くときは、「ながら聴き」であっても、内容を理解するにはある程度集中する必要があります。また、もし聞き逃してしまった場合でも、少し戻して聴き直すことができます。
2. 自分のペースで読めない
オーディオブックでは、ナナメ読みや飛ばし読みができず、ナレーターのペースに合わせて聴く必要があります。
ただ、小説を前提とすれば、もともとナナメ読みや飛ばし読みをすることは少ないため、あまり不便には感じていません。
3. ナレーターの好みに左右される
これは大きな要素です。どれほど内容が良くても、ナレーターの声や話し方が自分に合わないと、内容に集中できず、聴き続けることが苦痛になることがあります。
一方で、声や話し方が作品の雰囲気に合っていると、紙の本では味わえない没入感を得られることもあります。オーディオブックは「本を読む」のではなく、「朗読を聴く」サービスでもあるため、ナレーターとの相性は作品選びと同じくらい大切だと感じています。
こうした理由からオーディオブックが合わないと感じる人もいますが、デメリットを上回る大きな魅力を感じています。その理由を踏まえて、次に audible と audiobook.jp の違いを比較していきます。
audible と audiobook.jp の違いを比較
ここまでオーディオブックそのものの魅力について紹介してきましたが、実際に利用するとなると、audible と audiobook.jp のどちらを選べばよいのか迷う方も多いと思います。
どちらも定額プランを中心としたオーディオブックサービスですが、作品ラインアップや料金体系、対応デバイスにはそれぞれ特徴があります。
現在は audible をメインに利用していますが、小説を楽しみたいなら audible、ビジネス書やニュースを中心に聴きたいなら audiobook.jp という印象です。
| 比較項目 | audible | audiobook.jp |
|---|---|---|
| 月額料金 (聴き放題) |
プレミアムプラン 1,500円 |
聴き放題プラン 1,330円 年割:9,990円 (約833円/月) |
| 所有プラン | スタンダード:880円 毎月好きな1冊を選択 ※退会後は利用不可 |
シングル:1,500円 (1冊+500ポイント) ダブル:2,900円 (2冊+500ポイント) ※購入作品は退会後も利用可能 |
| 小説 | ◎ 独占作品・人気作品が豊富 | ○ |
| ビジネス書 | ○ | ◎ 国内作品が豊富 |
| ニュースコンテンツ | ○ | ◎ 「聴く日経」「毎日新聞ポッドキャスト」 |
| Amazon Echo | ◎ Alexaから音声操作可能 | ✕ |
| AirPlay | ○ | ○ |
| おすすめの人 | 小説・文学・声優朗読を楽しみたい | ビジネス書・自己啓発・ニュースを聴きたい |
特に違いを感じるのは作品ラインアップです。同じ作品でも朗読の制作方針が異なることもあり、小説好きなら、この違いは意外と大きいと感じました。
料金プランを比較
オーディオブックは毎月料金を支払って利用するサービスですが、audible と audiobook.jp では料金体系の考え方が少し異なります。
audible は、数十万冊以上の対象作品が聴き放題になるプレミアムプラン(月額1,500円)と、毎月好きな作品を1冊選べるスタンダードプラン(月額880円)があります。ただし、スタンダードプランで選んだ作品は会員期間中のみ利用でき、退会すると聴けなくなります。また、会員であれば聴き放題対象外の作品も30%オフで購入でき、購入した作品は退会後も引き続き聴くことができます。
一方、audiobook.jp は、月額1,330円の聴き放題プランに加え、年間9,990円(約833円/月)の年割プランも用意されており、長く利用する場合は料金を抑えられます。
また、チケットプランでは、作品の価格に関わらずチケット対象作品を1冊(シングル)または2冊(ダブル)選ぶことができます。さらに毎月500ポイント(500円分)が付与され、作品の購入にも利用できます。チケットで交換した作品や購入した作品は、退会後もライブラリに残り、引き続き聴くことができます。
以前は「本は所有するもの」という考えでしたが、すっかりサブスクリプションサービスに慣れてしまった今では、オーディオブックを所有したいという気持ちはなくなりました。
気になった作品を気軽に楽しめる聴き放題プランの方が、自分の使い方に合っていると感じています。
作品ラインアップで比較
料金プランにも違いはありますが、両サービスの個性が最も表れるのは作品ラインアップです。
まず大きな違いは、ニュースコンテンツです。audiobook.jp では、『聴く日経』や『毎日新聞ポッドキャスト』を聴き放題プランで利用できます。『聴く日経』は単独でも月額550円で契約できますが、聴き放題プランに含まれているため、ビジネス書とあわせて利用するのであればお得です。
下表は、ある時点での audiobook.jp の聴き放題ランキングです。
| 順位 | タイトル | ジャンル | audible | audiobook.jp |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 聴く日経 | ニュース | なし | 聴き放題 |
| 2 | 稲荷山誠造 ハワイの空に虹を呼ぶ | 小説 | 聴き放題 | 聴き放題 |
| 3 | マカン・マラン - 二十三時の夜食カフェ | 小説 | 聴き放題 | 聴き放題 |
| 4 | 満願 | 小説 | 聴き放題 | 聴き放題 |
| 5 | 52ヘルツのクジラたち | 小説 | 聴き放題 | 聴き放題 |
| 6 | 毎日新聞ポッドキャスト | ニュース | なし | 聴き放題 |
| 7 | オトステ | ポッドキャスト | なし | 聴き放題 |
| 8 | 願いをかなえるお清めCDブック | スピリチュアル | 聴き放題 | 聴き放題 |
| 9 | 傍聞き | 小説 | 聴き放題 | 聴き放題 |
| 10 | 後悔はあの町に置いてきた | 小説 | 聴き放題 | 聴き放題 |
『聴く日経』や『毎日新聞ポッドキャスト』を除くと、audiobook.jp のランキング上位を占めているのは小説でした。audiobook.jp にはビジネス書のイメージがありますが、実際によく聴かれている作品には小説も多いことが分かります。
そこで、audiobook.jp の「ビジネス書おすすめ」から上位5冊を比較すると、audible にあった作品は1冊だけでした。
| タイトル | audible | audiobook.jp |
|---|---|---|
| 仕事ができる人の「段取り」の技術 | ✕ | ○ |
| 最強の働き方 世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓 | ✕ | ○ |
| リーダーシップの哲学 | ✕ | ○ |
| 仕事が速い人が実践している、24時間の新習慣 | ○ | ○ |
| 一生モノの勉強法 | ✕ | ○ |
ビジネス書を中心に聴くのであれば、audiobook.jp の方が向いているのではないでしょうか。
一方、小説はどうでしょうか。
2024年から2026年までの本屋大賞受賞作品で比較すると、audible にはすべて配信されていますが、audiobook.jp にあるのは『成瀬は天下を取りにいく』だけでした。
- 2024年(第21回) 本屋大賞受賞作 『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈
- 2025年(第22回) 本屋大賞受賞作 『カフネ』阿部 暁子
- 2026年(第23回) 本屋大賞受賞作 『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ
そして、2026年本屋大賞ノミネート作品を比較すると、audible では10作品すべてが配信されていましたが、audiobook.jp には1作品もありませんでした。この差を見ると、小説のラインアップでは audible の強さが際立っています。
| 順位 | タイトル | 著者 | audible | audiobook.jp |
|---|---|---|---|---|
| 1 | イン・ザ・メガチャーチ | 朝井リョウ | ○ | ✕ |
| 2 | 熟柿 | 佐藤正午 | ○ | ✕ |
| 3 | PRIZE―プライズ― | 村山由佳 | ○ | ✕ |
| 4 | エピクロスの処方箋 | 夏川草介 | ○ | ✕ |
| 5 | 暁星 | 湊かなえ | ○ | ✕ |
| 6 | 殺し屋の営業術 | 野宮有 | ○ | ✕ |
| 7 | ありか | 瀬尾まいこ | ○ | ✕ |
| 8 | 探偵小石は恋しない | 森バジル | ○ | ✕ |
| 9 | 失われた貌 | 櫻田智也 | ○ | ✕ |
| 10 | さよならジャバウォック | 伊坂幸太郎 | ○ | ✕ |
また、先に挙げた新海誠、村上春樹、村上龍の作品も audible にしかありませんでした。
村上春樹作品では、『スプートニクの恋人』を宮崎あおいさん、『ノルウェイの森』を妻夫木聡さん、『海辺のカフカ』を木村佳乃さん、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を向井理さんが朗読しています。作品そのものだけでなく、朗読キャストの豪華さも audible の魅力です。
作品ラインアップを比較してみると、ニュースやビジネス書なら audiobook.jp、小説なら audible という印象は、実際の配信状況から見ても変わりませんでした。
Amazon Echo で聴くなら audible
スマートフォンで聴くのであれば、どちらも専用アプリがあるため大きな違いはありません。
一方、自宅で Amazon Echo を使っているのであれば、audible は非常に便利です。Alexa に対応しているため、リビングや寝室で、音声操作だけでオーディオブックを楽しめます。
と話しかけるだけで、今聴いている作品の続きを再生できます。
また、
のように作品名を指定して再生することもできます。
audible は、Echo をステレオペアで使っている場合でも、左右両方のスピーカーから再生されます。
スマートフォンを取り出さずに声だけで操作できるので、家事をしながらでも本を聴き始められるのは、audible の大きな魅力です。
Tivoli Audio で聴くのもいい
Tivoli Audio はラジオの音声も聞き取りやすく再生してくれるので、オーディオブックにも向いています。audible も audiobook.jp も AirPlay に対応しているため、iPhone からワイヤレスで再生できます。
Bluetooth 接続では、FMラジオを聴くときよりもかなり音量を上げないと聞こえませんが、AirPlay 接続なら音量差はあまり気になりません。
ラジオドラマを聴くような感覚で、Tivoli Audio でもオーディオブックを楽しめます。もちろん、お気に入りの Bluetooth スピーカーがあれば、それで聴くのもよいと思います。
まとめ
オーディオブックは、「本を読む時間がない人のためのもの」ではありません。本を開けない時間を読書時間に変えられるだけでなく、プロのナレーターや声優による朗読によって、小説の世界を新しい形で楽しめるのが大きな魅力です。
実際に両サービスを使ってみると、それぞれ得意分野が異なります。ビジネス書やニュースを中心に聴くのであれば audiobook.jp、小説を楽しみたいのであれば audible という印象は、作品ラインアップを比較してみても変わりませんでした。
小説を中心に聴いているため、小説が充実している audible を利用しています。また、寝室でも audible を楽しんでいるので、スマートフォンを使わずに音声操作だけで再生できる点も気に入っています。
一方で、ビジネス書やニュースを毎日の情報収集に活用したいのであれば、audiobook.jp の方が満足度は高いでしょう。
まずは無料体験を利用して、聴きたい作品がどちらにあるのかを確認してみることをおすすめします。
本を読むのが好きな方であれば、一度は「本を聴く」という体験を試してみてください。紙の本とは違った、新しい読書の楽しさが見つかるかもしれません。

