きれいに整った線ではなく、少し濃くなったり、淡くなったり、紙の上で息をするように揺れる線。
ペン先が紙に触れ、インクが少し遅れて追いかけてくる。そのわずかな濃淡や揺らぎが、書いた文字に人の手の跡を残してくれる。
モンブラン146で書いていると、文字を書くことそのものが少し楽しくなります。
愛用している PILOT、セーラー、プラチナといった国産万年筆は、ペン先の精度やインクフローの安定感、扱いやすさに優れていて、筆記具としての完成度も高く、満足度も十分です。
それでも万年筆沼の深みにはまると、いつしかモンブランのマイスターシュテュックが気になる存在になります。
黒軸にゴールドの装飾、キャップトップのホワイトスター。ひと目でモンブランと分かる象徴的なデザインは、何十年も大きく変わることなく、「高級万年筆とはこういうものだ」というイメージを形づくってきました。
万年筆を好きになったからには、一度は使ってみたくなるマイスターシュテュック。
けれど実際にモンブラン146を手にして強く惹かれたのは、その象徴性だけではありません。軟らかなペン先と、そこから生まれる濃淡と揺らぎでした。
このモンブラン146は、いつ生まれたのか
購入時の説明では、1970年代後半から1980年代初頭に作られたとされるモンブラン146とありました。
念のため、「趣味の文具箱 Vol.20」の特集「モンブラン146の世代差を徹底比較」に掲載されている年代判定表をもとに、手元の146の特徴を確認してみました。
購入した146には、次のような特徴があります。
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単色の「14C / MONTBLANC / 585」ニブ
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エボナイト製で、ペン芯の先にインクを溜める水平の切り割りがある
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クリップリングの「GERMANY」刻印
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インク窓がグレーの透明窓
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太字のリング刻印(MONTBLANC-MEISTERSTUCK No.146)
これらの特徴を年代判定表と照らし合わせると、1970年代中期から後期に見られる特徴を多く備えており、購入時の説明より少し古い可能性もあります。
とはいえ、ヴィンテージ万年筆にはパーツ交換や移行期の仕様もあり得るため、正確な製造年までは特定できません。
今回の146で特に惹かれたのが、単色の14Cニブでした。後年の14Kニブや現行の146とは異なる時代のペン先であり、この一本を手に取ってみたいと思わせる大きな理由のひとつでした。
半世紀近く前の道具ですが、モンブラン146は基本的なデザインが大きく変わっていないため、古さを感じさせません。そして何より、いまも実用品として自然に使えるところに、万年筆という道具の素晴らしさを感じます。
軟らかなペン先と、文字に生まれる濃淡
最初に入れたインクは、PILOT 色彩雫の「霧雨」でした。落ち着いたグレー系のインクで、このモンブラン146の濃淡や揺らぎにもよく合います。
実際に書き出してみると、まず印象に残ったのは、想像していた以上のペン先の軟らかさでした。
ペン先が紙に触れたときの感触は、PILOT のソフトニブ(SM)に近いと感じています。ごくわずかにしなってから、紙の上を滑り出していくような感覚があります。
この「わずかに」というところが気持ちいい。
ペン先のわずかなしなりに、書く速度やペン先の動きが重なると、線の濃さも少しずつ変わっていきます。その違いが一画の中に自然な濃淡を生み、文字全体にも揺らぎのある表情を残します。
字幅は国産の F より少し太く、実際に書いた印象では欧州の F くらいです。細すぎず太すぎず、普段使いしやすいちょうどよい太さです。
軟らかなペン先の感触と、こうした濃淡や揺らぎが重なるところに、この146で書く面白さがあるのだと思います。
中古の146、それとも現行『ル・グラン』?
今回手に入れた146はヴィンテージですが、中古の万年筆を選ぶとなると、心配な点も多くなります。
修理やパーツ交換の履歴、正確な年代や状態、正規品であることを示す書類や購入記録など、中古ならではの不確かさは残ります。また、古い万年筆は個体差も小さくありません。
今回の146で感じたペン先の軟らかさや、文字に現れる濃淡と揺らぎも、この年代、この個体ならではのものと考えた方がよさそうです。現行の146に同じ書き味をそのまま期待することはできません。
一方で、モンブラン146の基本的なスタイルは現在にも受け継がれています。
現在のラインアップでは「マイスターシュテュック ル・グラン」として販売されていて、146らしいサイズ感や、黒い軸にゴールドの装飾、キャップトップのホワイトスターといったマイスターシュテュックらしい姿は健在です。
ヴィンテージには、古いペンならではの魅力があります。ただ、状態や年代を見極めることに不安があるなら、新品のル・グランを選ぶという方法もあります。
どちらを選ぶかは、ヴィンテージならではの個性を楽しみたいのか、それとも安心して新品を選びたいのか。その違いなのだと思います。
モンブラン146は、やっぱり書きたくなる
この146に惹かれる理由は、軟らかなペン先や、ヴィンテージならではの雰囲気だけではありません。
紙に触れたときのわずかなしなり、書く速度によって生まれる濃淡、文字全体に残る揺らぎ。そうした小さな変化が重なって、書いた文字にどこか人の手らしい表情が残ります。
ペン先やインクの動きに少し任せながら書く。そのときに生まれる表情が、文字を書く楽しさにつながっているのだと思います。
特に書く用事がなくても、つい手に取ってしまう。
そんな万年筆が、「モンブラン マイスターシュテュック 146」なのだと思います。