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Post Date:2025年11月19日 

ソフトニブとフレックスニブの違い ── そしてステンレスソフトニブの実力

WANCHER 世界樹 サンダルウッド + ステンレスソフトニブ

スチールペン先のソフトニブ(軟調ペン)ってどうなんだろう――。

鉄ニブで軟調… “鉄軟”!? そんな言葉遊びと好奇心から、WANCHER「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」を購入しました。

万年筆を使い慣れてくると、次第に“軟らかいペン先”に惹かれるようになります。しかし、金やイリジウムの価格高騰もあり、金ペンの価格は年々上がるばかりで、気軽に手を伸ばしにくい存在になってきました。

それでも多くの万年筆ユーザーは、あえて柔らかいペン先を求め続けます。

では、なぜ私たちはペン先に“しなり”や“柔らかさ”を求めるようになるのでしょうか。


ソフトニブとフレックスニブは違う

「軟らかいペン先」と聞くと、どうしても同じようなものとして語られがちですが、ソフトニブフレックスニブは構造も役割もまったく異なります。

どちらも“しなるように見える”という点では共通していますが、書き心地や線の変化、使い方はまったく別の方向を向いています。

ソフトニブは筆記時の“クッション性”や“しなやかさ”を楽しむためのもの。一方、フレックスニブは筆圧による線の太細を大きく生み出し、筆のような表現をするためのものです。

見た目は似ていても、実は書き味も目的も大きく違うのです。


ソフトニブの特徴

ソフトニブは、筆圧をかけずに書いたときに“わずかにしなる”ような感触を持つペン先です。最大の魅力は、書き味がやわらかく、指先に心地よい弾力が返ってくること

線の太さが大きく変わるわけではありませんが、さりげない揺らぎが文字に自然な表情を与えます。筆記のリズムに寄り添ってくれる、独特の“しっとり感”も魅力のひとつです。

具体的には次のような特徴があります。

  • 軽い筆圧で書ける

    紙に押し付けなくてもインクが自然に落ち、手が疲れにくい。

  • しなやかな弾力がある

    ペン先がほんの少しだけ沈み、書き始めや書き終わりがやわらかな表情になる。

  • 線の太さはほとんど変わらない

    線の強弱を楽しむためのニブではなく、書き心地のやわらかさにフォーカスした構造。

  • 日常筆記に向いた穏やかな性格

    手帳、ノート、日記などの普段使いで真価を発揮する。

  • 日本語の筆記に相性が良い

    とめ・はね・はらいの微細な動きを、自然な揺らぎとして受け止める。

ソフトニブは現代の硬めのペン先の中で、万年筆らしいしなやかさを味わえる存在ですが、線の強弱を楽しむためのものではありません。

その役割はあくまで、“書くことそのものを気持ちよくしてくれるニブ” にあります。

また、軟調ペン先を使うようになって初めて、“筆圧をかけないで書く”という万年筆本来の書き方を実感できました。

力を抜いて書けるので手が疲れず、自然と滑らかに筆が運ぶ――そんな心地よさを教えてくれるのがソフトニブです。

日本の万年筆メーカーでは、下記のペン先でやわらかさを楽しめます。

メーカーモデルニブ
パイロットカスタムシリーズSF(細軟) / SFM(中細軟) / SM(中軟)
ELABO(エラボー)EF / F / M / B
プラチナ万年筆Century #3776SF(ソフトファイン:細軟)
セーラー万年筆プロフェッショナルギア21K大判ニブ

フレックスニブの特徴

フレックスニブは、筆圧をかけたときにペン先のスリットが大きく開き、線の太さが変化するように設計されたペン先です。

繊細な細線から力強い太線までを一本で描けるため、“線の表情を楽しむためのニブ” と言えます。

ソフトニブの「しなやかな書き心地」とは違い、フレックスニブは線そのものの強弱やインクの濃淡による変化をつけることを目的としています。

これは、日本語の美しさを支える「とめ・はね・はらい」「縦横のメリハリ」「文字の抑揚」 といった要素とも相性がよく、筆で書いたときのような“息づかい”が生まれるのがフレックスニブの魅力です。

具体的には次のような特徴があります。

  • 筆圧でスリットが開く構造

    ペン先のスリットが大きく広がり、細い線から太い線まで、明確なラインバリエーションが生まれる。

  • 線の強弱(太細)がはっきり出る

    アップストロークは細く、ダウンストロークは太く。筆記体や装飾文字だけでなく、日本語の「とめ・はね・はらい」を美しく見せる。

  • 少ない筆圧でしなる

    良質なフレックスニブは、わずかな力で自然に開くため、太線も滑らかに出せる。

  • 使いこなすには慣れが必要

    長く筆圧をかけ続けると“レールアウト”(インク切れ)が起きやすく、書き手のコントロールが求められる。

  • 文字に強い表情をつけられる

    行書、筆記体など、書く文字に動きや抑揚を持たせたい場面 で力を発揮する。

フレックスニブは、ソフトニブのような“しっとりした書き心地”ではなく、“線の変化を積極的に楽しむためのニブ” です。

そのため日常筆記よりも、「書く表現」や「筆跡のデザイン」に興味がある人に向いています。

日本の万年筆メーカーでフレックスニブを現行ラインナップとして提供しているのは、PILOTだけです。FA(Falcon)ニブは、毛筆のように線の強弱がはっきり出る希少な存在で、日本語の筆記にも表現力を与えてくれます。

PILOTの下記モデルでFA(Falcon nib)が選択できます。

モデルFAニブ選択可ニブサイズ特徴
Custom 742#10軽快・扱いやすい
Custom 743#15安定感・筆感が最も強い
Custom Heritage 912#10現代的デザイン・やや軽め

歴史的に見れば、つけペンはフレックスニブだった

万年筆が登場する以前、筆記の主役はディップペン(つけペン)でした。

当時はスパンサリアンやコッパープレートなど、線の太細がはっきりした筆記体が一般的で、その書体を美しく書くためには 柔らかくしなるペン先=フレックスニブ が欠かせませんでした。

スパンサリアンとコッパープレート
Created by GPT5

薄いスチールで作られたペン先は、筆圧をかけるとすぐにスリットが開き、細い線から力強い太線まで自在に描けるようになっていました。


最初の万年筆も、実はフレックスニブだった

万年筆の原型をつくったウォーターマン(WATERMAN)も、例外ではありません。19世紀末~20世紀初頭にかけて作られた初期のウォーターマンには、つけペン文化を引き継ぐ、柔らかくしなるフレックスニブ が搭載されていました。

その代表例が、ヴィンテージ万年筆として今も人気の WATERMAN #52

  • 1920年代の代表モデル
  • 黒のハードラバー軸にゴールドのクリップ
  • ペン先は柔らかくしなる14Kゴールド
  • わずかな筆圧で太線が生まれる、本物のフレックス

現在でも「真のフレックス(True Flex)」の象徴として語られるほど、しなり・反発・線の強弱の美しさ を備えた名品です。

こうした欧米のペン文化の影響は、日本の万年筆づくりにも及びました。

国産万年筆メーカーであるパイロット、プラチナ、セーラーの黎明期(1920〜1930年代)でも、柔らかめでしなる金ニブ が数多く作られており、当時は今よりずっと“しなりのあるペン先”が一般的でした。

しかし、戦後になるとボールペンの普及とともに筆記習慣が大きく変化します。

筆圧を書き込む筆記具が主流になったことで、万年筆にも耐久性や安定性が求められ、徐々に硬いペン先が主流へと移っていきました。


まずは、軟調ペン(ソフトニブ)から――筆圧を抜く書き方を身につける

つけペンの時代から受け継がれた“しなるペン先”は、文字に表情を与える一方で、扱いには繊細さが求められます。

現代のように筆圧を書き込む筆記具に慣れた私たちにとって、いきなりフレックスニブを使いこなすのは難しいのが正直なところです。

そこで大きな助けになるのが 軟調ペン(ソフトニブ) です。

ソフトニブは、フレックスのように派手に開くわけではありませんが、わずかな“しなり”と“弾性”を通して 筆圧を抜いて書く感覚 を自然に教えてくれます。

自分も PILOT Custom Heritage 912 SM(中軟)を使って、初めて、

「あ、力を入れないほうが万年筆は気持ちよく書けるんだ」

という感覚を実感できました。

Custom Heritage 912 SM

強く押し付けるクセが残っていた頃はペン先が引っかかることもありましたが、力を抜くと紙を滑るようにペン先が動き、手が疲れず、書くことそのものが軽くなるのを感じました。


すべてのソフトニブが“筆圧からの転換”に向くわけではない

軟調ペンは万年筆本来の書き方を教えてくれる存在ですが、プラチナ#3776 SF やパイロットの ELABO のような大きくしなるニブは、強い筆圧で育ってきた人にとって扱いが難しい場合があります。

  • ペン先が沈み込みすぎる
  • 思わぬ方向へしなって不安定に感じる
  • 力を抜く前に“書きづらい”と感じてしまう
  • 書き癖が強いほどコントロールが難しい

筆圧のある書き方から、いきなり 非常に柔らかいソフトニブ に移行すると、「気持ちよく書ける」よりも前に “扱いづらさ” を感じてしまいます。

その結果、「ソフトニブって書きづらい」という誤解につながることもあります。

これでは本末転倒です。


"筆圧を抜く"ための最良の入口は、穏やかな軟調ニブ

特にオススメなのが、パイロットの Custom 742 または Custom Heritage 912 に搭載される10号ペン先の SM(中字・軟)。 やわらかさは十分にありながら、しなりすぎず、適度なコシを保つため、筆圧が自然に抜けていく“絶妙なバランス”を持つ軟調ペン先です。

また、万年筆価格が高騰している昨今、742や912が予算的に厳しい場合は、より手頃な Custom 74 SM も候補に入ります。

パイロットの“やわらかいけれどコシがある” バランス型のソフトニブは、

  • 力を抜いたときに気持ちよく書ける
  • 書くほど自然に筆圧が抜ける

という特性があり、筆圧のある書き癖を持つ現代の書き手にとって、“力を抜いて書く万年筆らしい書き方”へ移行するための、ちょうど良いステップになります。

そして、一本目の軟調ペン先を選ぶのであれば、万年筆らしい線の伸びやかな表情をもっとも素直に味わえる SM(中字・軟) が最適です。

筆圧ゼロで"ふわっと書き"、紙の上を“無重力散歩”するような心地よさを味わってみてください。


筆圧を抜くための万年筆の持ち方

軟調ペンを使うと筆圧を抜いて書く感覚がつかみやすくなりますが、そもそも “万年筆の持ち方” が間違っていると、どんなペン先を使っても筆圧は抜けません。

繰り返し掲載していますが、とても大事なので改めて記しておきます。

万年筆の持ち方
  1. 手の力を抜き、手首は 90° くらいの角度にする
  2. 中指の指先の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印(ロゴ)は必ず上向き
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

下記がGPT5で生成した正しい万年筆の持ち方です。

万年筆の正しい持ち方
万年筆の正しい持ち方:Created by GPT5

筆圧をかけない書き方をするには、万年筆を軽く持つことが何よりも重要です。強い筆圧の原因の多くはペンを強く握る持ち方にあります。

下の例では、ペンを持つ指に力が入りすぎて、人差し指が反り返ってしまっている悪い例です。実は、自分も以前はこのような持ち方をしていて、無意識に強く握り込んでいました…。

ペンを持つ手に力が入ってしまっている例:Created by GPT5

書道家・大江静芳氏の動画では、万年筆の持ち方がとても分かりやすく解説されています。文字や写真だけではイメージしづらい方は、こちらの動画を参考にしてみてください。


ソフトニブとフレックスニブの違いをまとめると

万年筆に慣れてくると、自然と“軟らかいニブ”に魅力を感じるようになります。ソフトニブは、筆圧をかけずに書くという万年筆本来の心地よさを味わえるニブです。

一方、フレックスニブは線の太さを大きく変化させることができ、筆のような抑揚で日本語を美しく表現できるニブです。

以下にソフトニブとフレックスニブの違いをまとめます。

特徴 ソフトニブフレックスニブ
スリット開き幅少ししなるが、スリットは大きく開かない筆圧で大きく開き、線幅が大きく変化する
筆跡の特徴線幅の変化は控えめで、安定した整った筆跡細線〜太線の差が大きく、表情豊かな筆跡になる
筆圧の必要度筆圧をかけずに軽く書ける線の変化を出すには筆圧コントロールの習熟が必要
インクフロー均質で安定しており、日常筆記に向く開きすぎるとインクが追いつかずスキップすることがある
書き味柔らかくしなやかな書き味で扱いやすい表現力は高いが、使いこなしには慣れが必要

WANCHERのステンレス・ソフトニブとは

WANCHERの 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を購入したのは、

「スチール製のソフトニブって実際どうなんだろう?」

という純粋な興味からでした。

結論としては、

価格を抑えながら、ソフトニブ的な“しなり”を体験できる貴重な選択肢

だと感じています。

#6 JOWO・ステンレスソフトのしなり具合

「#6 JOWO・ステンレスソフト」は、ペン先の両側にサイドカットがあり、楕円に削られています。このサイドカットされた部分より先で曲がる(しなる)構造になっています。

字幅はF:細字です。

#6 JOWO・ステンレスソフト

ソフトニブなのでしなりはしますが、スリットが大きく開くわけではありません。そのため、フレックスニブのようなダイナミックな線の強弱ではなく、“さりげない表情の変化” にとどまります。

#6 Jowo ソフトニブ の筆致

WANCHERのステンレスソフトニブは、金ペンのようなしなやかな弾力とは違いますが、スチールとは思えない“意外な気持ちよさのあるしなり” を持っています。

  • 押し込みすぎない範囲で、ほどよくしなる
  • スチールとは思えない軽やかなしなり
  • インクフローもよく、“紙の上を滑る感覚” を味わえる

といった特徴があり、WANCHER のステンレスソフトニブは、

「万年筆らしい柔らかさを味わいたい人」に最適で、同時に “筆圧を抜く書き方” を身につけるステップとしても優れた一本 と言えます。

金ペンの軟調ニブやフレックスニブへ進む前の、現実的で、楽しい入口のひとつ となるペン先です。


WANCHERのソフトニブの購入は

WANCHER公式サイトでは、世界樹カレイド のペン先として「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を選択できます。このオプションで購入すると、金ペン軟調ニブで比較的手頃な PILOT Custom 74 SM(中軟)よりも低価格で“ソフトな書き味”を試せる点が魅力です。

また、すでに JOWO #6 に対応した万年筆 を持っている場合は、交換用として 「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」 を購入し、ペン先を付け替える方法もあります。

※ 国産では WANCHER、海外では TWSBI が、JOWO #6 に対応した万年筆をラインナップしています。

ただし、万年筆によっては ペン芯の形状や個体差により相性が出る場合 があるため、ニブ交換は自己責任でお願いします。

残念ながら自分が WANCHER 世界樹・サンダルウッド を購入したときは、オプションでペン先をステンレスソフトに変更できませんでした。そのため、交換用の 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を別途購入して付け替えて使っています。


ステンレス・フレックスニブはどうなのか?

ステンレス・ソフトニブの書き心地が想像以上に良かったので、次に気になっているのがステンレス製のフレックスニブです。

現在、WANCHERの公式サイトには#6 ニブ・ワンチャー真玉ストリームニブ という、ステンレスのセミフレックスサンセットニブをブレード構造に改良したフレックスニブが掲載されています。

ただし残念ながら、まだ販売前の段階。

ソフトニブが先行して発売された流れを見ると、いずれ販売される可能性は高く、楽しみに待ちたいところです。

一方、Amazonには、MONTEVERDE(モンテベルデ)製の「#6 JOWO 用ステンレス・フレックスニブ」が販売されています。

もちろん、書き心地だけで言えばPILOT Custom 743 の FA(Falcon)ニブのほうが上質であることは間違いありません。

それでも、

「スチールでどこまでフレックスを再現できるのか?」

という好奇心は大いに刺激されます。

嗚呼、物欲の神様……。


まとめ:自分だけの軟調ペンを選ぶ楽しみ

万年筆を使い続けるうちに、書き心地の違いや、字の表情の変化 に自然と目が向くようになります。

その入口として、ソフトニブ(軟調ペン) が最適です。

しなりすぎず、筆圧を抜いたときの心地よさを教えてくれる——それは現代の硬めの万年筆では得られない、万年筆らしい魅力です。

一方で、文字の表情を大きく変えたいなら フレックスニブ という選択肢があります。線の太さが変わり、日本語にも筆記体にも、筆のような抑揚を与えてくれる特別な存在です。

そして今回のような、JOWO #6 のステンレスソフトニブ は、金ペンへ進む前の“現実的で楽しいステップ”として、とても良い体験を与えてくれます。

スチールでもしなる。けれど、扱いやすい。その意外性こそが、このニブの魅力と言えるでしょう。

柔らかさを知ることは、書く楽しさを広げること でもあります。

あなたも、自分にとって心地よい一本を見つけてみてください。

Post Date:2025年9月13日 

普段使いの一本に+表現力 ― PILOT エラボー

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟

Custom 743 FA(フォルカン)を購入して、「次のELABO(エラボー)で、軟調ペン先は最後にしよう」と考えていました。

そんな折、PILOTが2025年10月1日から価格改定を行うというニュースが入り、エラボー(樹脂軸)も6,000円の値上げ対象に。

現在発売されているエラボーは3代目で、2009年に登場しました。発売当初の価格は 18,000円(税別)で、2024年の価格改定まで15年間も価格は据え置かれていました。

しかしそこからわずか2年の間に3度の価格改定が行われ、2025年10月1日に 32,000円(税別)、税込では35,200円となります、、。

3代目エラボー価格遷移
税抜 消費税率 税込
2009年 3代目エラボー 18,000円 5% 18,900円
2014年04月01日 18,000円 8% 19,440円
2019年10月01日 18,000円 10% 19,800円
2024年01月01日 22,000円 10% 24,200円
2024年10月01日 26,000円 10% 28,600円
2025年10月01日 32,000円 10% 35,200円

値上げ前のいまをチャンスと捉え、思い切ってエラボーを駆け込みで手に入れました。


PILOT ソフト調ニブの系譜

PILOTは「ソフトニブ」と呼ばれる軟調ペン先を多数ラインナップしています。

代表的なのは SF(細字軟)・SFM(中細字軟)・SM(中字軟) といったタイプで、通常のペン先にクッション性のある『しなやかさ』を加えた設計になっています。

軟らかすぎないため、普段の筆記や長時間の使用にも最適で、扱いやすい軟調ニブです。

一方で、FA(Falcon nib)エラボー専用ニブ は、筆圧を加えることでペン先が大きくしなり、特にFAニブは、細字から太字まで自在に変化させることができます。

「はね・はらい・とめ」といった毛筆的な表現を得意とし、通常のソフト調ニブよりもはるかに豊かな表現力を発揮します。


パイロット軟調ペン先(SF・SFM・SM)の特徴

パイロットの軟調ペン先(SF・SFM・SMなど)は、基本的な形状は通常のニブと同じですが、わずかに柔らかさを加えた設計になっています。

Custom74/742/743、Custom Heritage 912 などで選択できます。

PILOTソフト調のペン種

フォルカンやエラボーのように大きくしなるわけではなく、柔らかいタッチで心地よい筆記感が魅力です。字幅のバリエーションも豊富で、細字から中字、太字まで用途に合わせて選びやすく、日常的な筆記に適しています。

ダイナミック表現力を求めるというよりは、普段の書き心地をより快適にしたい人にぴったりの選択肢です。

さらに、ペン先が適度にしなることで長時間の筆記でも手が疲れにくく、手紙やノート、仕事での使用にも安心して使える点が評価されています。

つまり、パイロットのソフトニブは「表現力」よりも「心地よさ」を重視する人にとって、最も扱いやすい軟調ペン先だと言えます。

金ペン軟調万年筆については下記の記事をご覧ください。


FA(フォルカン)ニブの特徴(Custom 743/742など)

フォルカンは、Custom 743では15号、742では10号という大きなサイズのペン先を持ち、しなり幅が非常に大きいのが特徴です。

ペン先に字幅のバリエーションはなく、筆圧によって細字から太字まで自在に操ることができます。「はね」「はらい」「とめ」といった毛筆のような表現を得意とし、文字に力強さや抑揚を与えることができます。

一方で、インクフローが非常に豊かであるため、紙質によってはにじみや裏抜けが起こりやすい点には注意が必要です。

また、表現力の高さは大きな魅力ですが、日常の細かいメモや長時間の筆記では扱いにくさを感じることもあります。

フォルカンは、実用性よりも表現力を優先する書き手に向いた、個性的なペン先です。

Custom 743 FAニブ(フォルカン)についてのレビューはこちらをご覧ください。


エラボーの特徴

エラボーには金属軸と樹脂軸の2種類がありますが、どちらもエラボー専用に設計されたニブで同じものを備えています。

エラボーは、フォルカンほど大きなしなりはなく、柔らかさはやや控えめですが、その分コントロールしやすく安定感のある書き味が特徴です。

字幅のバリエーションも豊富で、SEF(極細)・SF(細字)・SM(中字)・SB(太字) の中から用途や好みに合わせて選ぶことができます。

普段使いで安定した筆記を保ちながら、必要なときには文字に表現力を加えることができるため、日常と表現性をバランスよく両立できる一本といえるでしょう。

また、フォルカンに比べて扱いやすいため、初心者から中級者まで幅広い層におすすめできるのも魅力です。

エラボーは、ソフトニブとフォルカンの中間的な位置付けにあり、実用性と表現力の両方を求める人にとって最適な選択肢となります。


エラボーのペン先形状

エラボーのペン先は、その形状に大きな特徴があります。海外ではファルコン(はやぶさ)という名前で販売されていますが、根本から先端にかけて大きく湾曲していて、中程で隆起する、猛禽のクチバシのような独特の形状に加工されています。

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟のペン先

ペン芯はフラットで櫛溝がないのが特徴です。

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟のペン芯

筆圧を加えるとニブがしなるように開き、細字から太字まで滑らかに変化させることができ、毛筆のような抑揚ある筆跡を生み出します。

さらに、中央の切り割り(スリット)が通常のペン先よりも長く設計されている点も特徴的です。この長いスリットによって柔軟性が高まり、軽い力でも『しなり』やすくなっています。

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟のスリット

ただし、フォルカンほどの極端な動きではなく、適度な抑えが効いているため、安定した書き味を保てるのがエラボーならではの魅力です。

フォルカンとの比較です。同じしなりを作り出すニブですが形状は大きく異なります。

FAニブとELABOの比較

実際にエラボーを使ってみて(レビュー)

エラボーの第一印象は「華奢?」というものでした。他のパイロットの万年筆と比べると、やや細く短く、握った感触もスリムに感じます。

万年筆軸径長さ重さ
ELABOφ14.4mm137mm18.0g
Custom74φ14.7mm143mm17.4g
Custom Heritage912φ15.7mm137mm20.0g
Custom 743φ15.7mm149mm25.0g

特にフォルムが似ているCustom Heritage912と比べるとかなり痩せっぽちです。

Custom Heritage 912 と ELABO の比較

肝心の書き味ですが、フォルカンはしなり幅が大きく、筆圧のコントロール次第で線が劇的に変化します。一方エラボーは、そのダイナミックさが抑えられており、「しなるけれど書きやすい」万年筆という印象です。

また、軟調ペン先のSM(中字軟)と比べると、エラボーには明確なしなりがあり、字に表現力を加えられます。

フォルカンやソフトニブと比べると、エラボーの魅力は「柔らかさ」「表現力の幅」「扱いやすさ」のバランスにあります。

軽く筆圧を加えると線に表情が生まれますが、フォルカンほどの大きな変化ではなく、安心してコントロールできる範囲に収まっています。

インクフローも過剰ではなく安定しており、長時間の筆記でも疲れにくいのは大きな利点です。

フォルカンが「豊かな表現力を発揮する一本」だとすれば、エラボーは「日常の筆跡に静かな彩りを添える一本」と言えるでしょう。

エラボーは、手帳やノートなど、細かい字を多く書く毎日の筆記にピッタリです。


どんな人におすすめか

エラボーは、万年筆らしい「筆圧をかけない書き方」ができないと扱いづらさを感じる万年筆です。そのため、まったくの初心者よりも、ある程度万年筆に慣れた人に適しています。

ただし、金ペンの価格高騰を踏まえると、万年筆デビューをエラボーで飾るという選択肢も十分に考えられます。その場合は、まず「万年筆の正しい持ち方」を意識することから始めてください。

ソフトニブ以上にニュアンスを表現できる一方で、フォルカンほど大きなしなりはないため、ノートや手帳など日常の筆記で自然に文字に味わいを加えられるのが魅力です。

また、「フォルカン(FAニブ)が気になるけれど、自分に使いこなせるかが不安」という人にとって、適度な表現力で扱いやすいエラボーは最適な選択肢です。


万年筆の持ち方

筆圧をかけない書き方をするには、万年筆を軽く持つことが大切です。強く握るのではなく、人差し指と親指で軽く支えるのが正しい持ち方です。

万年筆の持ち方をGPT5で生成してみました。

万年筆の正しい持ち方
万年筆の正しい持ち方:Created by GPT5
  1. 手の力を抜いて手首を90°にする
  2. 中指の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印は上向きになるように
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

下の例では、ペンを持つ指に力が入りすぎて、人差し指が反り返ってしまっています。実は、自分も以前はこのような持ち方をして書くときは力が入っていました…。

ペンを持つ手に力が入ってしまっている例:Created by GPT5

書道家の大江静芳氏の動画を参考に、万年筆の正しい持ち方を身につけましょう。


まとめ 〜普段使いの一本に+表現力〜

Custom 743 FAのようなダイナミックな表現力も魅力的ですが、エラボーは日常に優しく彩りを添えてくれます。今回は手帳用の万年筆として細字を選んだため、字幅の変化はさらに控えめに感じます。

ELABOの筆致

まさに「普段使いの一本に+表現力」という言葉がふさわしい存在だと感じました。

ソフトニブよりも一歩深い表現を楽しみたい人、フォルカンほどのクセは要らないけれど柔らかさを求めたい人にとって、エラボーはちょうど良い答えになるでしょう。

普段使いの一本にさりげない表現力を加えてくれる ーー それがPILOT ELABO(エラボー)です。

Post Date:2025年9月7日 

軟らかさと抑揚の世界、底の見えない万年筆沼の怖さ

象と散歩:軟らかさと抑揚の世界、底の見えない万年筆沼

万年筆を使い始めたころ、ボールペンと同じように強い筆圧で書き、F(細字)やEF(極細字)の硬いペン先を好んでいました。

しかし、中字の万年筆が生み出すインクの豊かさに出会い、軟らかいペン先のしなやかさに触れることで、筆圧をかけずに書ける万年筆の魅力を知りました。

そして今では、字に抑揚をつけることで、拙いながらも「行書」を嗜むようになりました。

そんな自分の万年筆との遍歴を振り返ってみたいと思います。


強い筆圧で書く細字の万年筆

万年筆を使い始めたころは、EF(極細字)やF(細字)の硬いペン先を好んでいました。

長年、FABER-CASTELL Ambition のボールペンを使っていたこともあり、最初の一本も同じ Ambition の EF(極細) にしました。

もう一本は、LAMY Safari F(細字)です。

LAMY Safari とFaber-Castell Ambition

何も、強い筆圧で細い字が書けるので、違和感なくボールペンから万年筆へ移行でき、細い軸も三角グリップも「強く握る」自分の書き方に合っていました。

この頃使っていた万年筆は、ボールペンの代替にすぎませんでした。


中字で知ったインクの豊かさ

万年筆の素晴らしさに気が付くきっかけとなったのは、MDノートを買いに行ったときに「カワイイ」と、衝動買いをしたMDつけペンでした。実は、これが中字との出会いでした。

MDつけペンのペン先

普段使っている極細字では感じられなかった、インクの濃淡や線の丸みが紙の上に現れ、書いた文字に「味わい」が生まれることに驚きました。

最初は「太すぎるのでは」と思った中字でしたが、書いてみるとむしろバランスが良く、読みやすさを保ちながら表情が豊かになることに気づきました。

万年筆が、初めて「表情を生み出す道具」になりました。


軟調ペン先と筆圧をかけない書き方

万年筆について調べるうちに、「金ペン」や「軟調ペン先」という言葉に強く惹かれました。

最初に手にしたのは、 PILOT カスタムヘリテイジ 912 SM(Soft Medium)、軟調ペン先のしなる感覚に触れ、書き味の柔らかさに驚きました。

Custom Heritage 912 SM

それまでの私はボールペンと同じように強い筆圧で書いていましたが、軟調ペン先だと筆圧が強いと逆に書きづらくなってしまいます。

そのため自然と「力を抜いて書く」ことを覚え、筆圧をかけずに文字を書く心地よさを知りました。

万年筆は軽く持ち、筆圧をかけずに書くことでこそ、万年筆らしい書き味となり、「楽に」書ける優れた筆記具だと実感しました。

続いて選んだのは、柔らかいという金の特徴を活かしたSAILOR プロフェッショナルギア 中字

SALOR PROFESSIONAL GEAR M

さらに、PLATINUM #3776 センチュリー SF(細軟)と、軟らかなペン先を次々と試していきました。

ペン先には、#3776と富士山を彷彿させるライン、そして可愛らしいハート型のハート穴です。

Platinum #3776 Century Soft Fine

正しい万年筆の持ち方

こちらは再掲となりますが、万年筆で筆圧をかけずに書くためには、ボールペンとは異なる持ち方を習得する必要があります。

ChatGPTに万年筆の正しい持ち方を指示して描いてもらった絵がこちらです。

万年筆の正しい持ち方
Created by GPT5

日本の万年筆の多くは、キャップを後ろに挿して使うことで、筆記時のバランスが良くなるように設計されています。そのため、書く際にはキャップを後ろに挿すのがおすすめです。

万年筆の持ち方

  1. 手の力を抜いて手首を90°にする
  2. 中指の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印は上向きになるように
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

と、こんな感じですが、百聞は一見に如かず。書道家の大江静芳氏の動画を参考に、正しい持ち方を身につけましょう。

この持ち方であれば、自然と筆圧をかけずに書けるようになります。

そしてそれこそが、万年筆らしい書き味を楽しむ第一歩です。


字に抑揚をつける楽しさ

軟調ペン先で「力を抜いて書く」ことを覚え、「行書」について学び始めると、文字に表情をつけたいと思うようになりました。

そうして手にしたのが、WANCHERの渓流ニブ小太刀ニブです。

渓流ニブと小太刀ニブの比較

渓流ニブも小太刀ニブも鉄ニブ(ステンレス製)なので "しなり" はありませんが、ペン先の角度によって線の太さに変化ができます。

渓流ニブのカマボコ型のペンポイントは、立てて書けば細く、寝かせれば太く──まるで毛筆のように自然な抑揚が生まれます。

一方の小太刀ニブは、矢尻のように尖れたペン先が、渓流ニブよりシャープで繊細な表現を生み出します。

渓流ニブと小太刀ニブの文字比較

上が渓流ニブ、下が小太刀ニブで書いていますが、共に鉄ニブとは思えないほどの表現力の幅に驚かされます。

「ただ書くだけ」だった文字が、抑揚のある筆跡へと変わるので、行書の練習にも大きな助けとなっています。


筆圧で表現力を:フォルカン

渓流ニブや小太刀ニブは「ペン先の角度による抑揚」でしたが、フォルカンは、金ペンのしなやかさを活かし、細い線から太い線まで筆圧によって線の表情を変えるペン先です。

10号と15号のペン先で悩みましたが、「えーいっ!」とPILOT カスタム 743 FAを購入。

PILOT Custom 743 Folcan

軟調ペンはペン先がしなっても、スリット(ペン先の割れ目)があまり大きく開かないようになっていますが、フォルカンは逆に大きくスリットが開くような設計になっています。

力を抜けば極細の線が、ぐっと筆圧をかければ毛筆のような太い線が ── まるで筆の穂先を操るようなダイナミックな表現が可能です。

ただし、その分コントロールは難しい、、。

まさに「扱いの難しいがゆえに、表現力の幅が大きい」ペン先でした。

これで自分の万年筆の旅も一区切りと思いました。
……しかし、いちどハマった万年筆沼の深みは底知れません……。

#3776 SF, ヘリテイジ912 SM, カスタム743 FA, プロギアM

終わりではなく次へ?

中字の万年筆だと細かい字を書くと字が潰れてしまいます。

なので、手帳に書くときは PLATINUM #3776 センチュリー SF(細軟) を使うことが多いです。

だったら、細字の実用性に加えて、柔らかさと抑揚を両立した万年筆があっても悪くはない。

PILOT ELABO(エラボー) が、気になります、

エラボーは、フォルカンほど極端にペン先が開かず、日常の筆記にも使いやすいと評判です。
それでいて軟調らしい柔らかさがあり、筆圧を少し変えるだけで抑揚のある線が生まれます。

エラボーは、字幅が、EF、F、M、Bから選べるということからも、フォルカンよりペン先の割れ目が開かないということがわかります。

手帳に書くのには、エラーボーの細字がいいかも。

やっぱり、次の一本が気になってしまいます……。
終わりのない万年筆探しは、まだまだ続きそうです。

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