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Post Date:2026年2月22日 

軟調ペン先と行書はなぜ相性がいいのか ― 4つの共通点から考える

万年筆と行書の美学

軟調ペン先に興味を持ったのは、万年筆のペン先がもともと柔らかいものだったと知ったからです。 書きやすさや安定性が重視され、硬いペン先が主流となった今だからこそ、あえて軟調ペンを選びたい──そう考えるようになりました。

軟調ペン先の特性を活かすために始めたのが、

  • 行書
  • 書く瞑想

です。

万年筆で行書の練習を重ねるうちに、行書と万年筆の相性のよさは、感覚から確信へと変わっていきました。

そこで今回、万年筆と行書の関係性について、あらためて考察したいと思います。


万年筆と行書の共通点①:力をいれない

万年筆と行書の最初の共通点は"力を入れない"ということです。

近代以降、万年筆は耐久性の向上や、ボールペンのように筆圧をかけて書く筆記具に合わせる形で、強い筆圧でも書ける構造へと変化してきました。しかし本来、万年筆は筆圧を必要としない筆記具です。

一方、行書は力を抜いて書く書体です。力を抜くことで、万年筆はペン先のしなりが生き、行書では線の入りと抜けが自然につながります。

現代の万年筆は強い筆圧でも安定して書けるよう調整されていますが、軟調ペン先(ソフトニブ)はペン先が柔らかいため、筆圧をかける書き方では本来の良さが発揮されません。

行書もまた流れを大切にする書体であり、力を入れると線が詰まり、同様に書きづらくなります。

まずは万年筆を正しく持ち、力を抜く感覚を体に覚えさせることが大切です。


万年筆と行書の共通点②:線の表情を楽しむ

万年筆は「線の情報量」が多い筆記具です。ボールペンやシャープペンは、基本的に一定の太さ・一定の濃さで線を出します。一方、万年筆は構造上、線がわずかに変化します。

万年筆は水性インクを使います。紙に染み込み、わずかなにじみや濃淡が生まれます。書き出しはやや濃く、書き進めるにつれてインクは落ち着き、ペンを抜くときには薄くなります。この濃淡が線に立体感を与えます。

軟調ペン先(ソフトニブ)では、フレックスニブのような大きな強弱はありませんが、ペン先は紙に触れた瞬間にわずかにしなり、抜きでは自然に細くなります。

このように、万年筆で書くと、意図していなくても線にさりげない抑揚が生まれます。

一方、行書は、線の強弱、入りと抜け、連続する運筆によって表情をつくる書体です。

  • 入りをやや強くすれば芯のある印象に
  • 抜きを柔らかくすれば軽やかな印象に
  • 連綿をつなげれば流動感が生まれます

このように、線そのものが感情やニュアンスを伝えるのが行書の特徴です。

万年筆、とくに軟調ペン先は、こうした微細な変化を自然に線へと反映させます。だからこそ、線で表情をつくる行書と、万年筆は本質的に相性がよいのです。


万年筆と行書の共通点③:流れが続く

万年筆と行書に共通するもうひとつの特徴は、流れが途切れないことです。

万年筆は、ペン先を強く押し付けなくても毛細管現象によりインクが安定して供給されます。そのため、紙の上を滑らせるように書くことができます。強い筆圧を必要としない分、手の動きが止まりにくく、運筆のリズムが保たれます。

とくに軟調ペン先は、わずかなしなりによって筆記時の衝撃を吸収します。これにより、書き続けても手に余計な力が入りにくく、自然な流れが維持されます。

一方、行書もまた、運筆の連続性を前提とした書体です。単に線と線をつなげるだけではなく、入りと抜けによってリズムを生み出し、そのリズムが「流れ」を形づくります。

力を入れた瞬間、行書の流れは途切れ、万年筆本来の滑らかさも失われます。

力を入れず、流れるように書ける万年筆と行書の組み合わせは、長時間書き続けても疲れにくいという利点があります。


万年筆と行書の共通点④:抜いて終わる

万年筆と行書に共通する最後の特徴は、抜いて終わることです。

万年筆で書き終えるとき、力を残したまま止めれば、線はそこで断ち切られます。しかし、力を抜いて終えれば、線は自然に細くなり、やわらかく収束します。

そこには、無理に形を作ろうとする意志はありません。ただ、流れが静かに収束していくだけです。

行書もまた、トメを強調して終わる書体ではありません。ハネやハライは、力で作る形ではなく、流れの中で抜いた結果として現れるものです。だからこそ、線の終わりには余韻が残ります。

万年筆、とくに軟調ペン先は、そのわずかな抜きの変化を素直に受け止めます。終わり方に余韻を残すという美学は、万年筆と行書のあいだで静かに共有されます。


行書の「入り(入り方)」と「抜き(ハネ・ハライ)」

行書を“動き”として捉えると、意識すべきなのは「入り」と「抜き」の二つです。

入りとは、筆が紙に触れる最初の瞬間のことです。どの角度で入り、どの程度の力で接地するかによって、線の印象は大きく変わります。

抜きとは、線を終えるときの処理です。ハネやハライは、形として作るものではなく、力を抜いた結果として現れる動きです。

筆圧をかけずに書く万年筆は、この「入り」と「抜き」の変化を素直に線へ反映します。とくに軟調ペン先では、入りのわずかなしなりと、抜きの収束が自然に表れます。


やっぱりカスタムヘリテイジ912が好き

最初に購入した軟調万年筆という思い入れもありますが、とても書きやすく、魅力のある一本です。

筆圧をかけない本来の書き方と、万年筆ならではのよさを教えてくれました。

インクフローは安定しており、ペン先はわずかにしなります。線は静かに変化し、無理に表情を作ろうとしなくても、自然と抑揚が生まれます。

ペン先の軟らかさだけで言えば、プラチナ #3776 センチュリー SF(細軟)の方が上です。ですが、初めての一本としては、やや繊細すぎると感じるかもしれません。字幅が細字に限られる点も含めると、扱いやすさとのバランスを考えたいところです。

万年筆価格が高騰している今、気軽に何本も試せる時代ではなくなりました。だからこそ、PILOT Custom Heritage 912 SM(中字・軟)は、最初の一本としても、長く寄り添える一本としても、安心して選べる万年筆です。

軟調ペン先(ソフトニブ)には、フォルカンニブのような派手さはありません。しかし、そのさりげない変化の中に安心感があります。軟調ペン先の魅力は、強く主張することではなく、書き手の力を抜かせてくれることにあります。

書くたびに、やはり好きだなと感じる一本です。


万年筆高騰の中での選択

万年筆愛好家にとっては受難の時代とも言えるほど価格は上昇しています。軟調ペンと行書の相性のよさを実感できたとしても、渋沢栄一が2枚、3枚と必要になるとなれば、気軽に試せるものではありません。

少しでも出費を抑えたいのであれば、Amazon・楽天・Yahoo!ショッピングなど、信頼できる大手ECサイトでの購入も選択肢のひとつです。店舗で購入するより安価な場合もあり、ポイント利用や還元を活用することで、実質的な負担も抑えられます。

価格を抑えられたという満足感に背中を押されて、清水寺の舞台から飛び降りてみれば、そこは意外にも極楽浄土かもしれません。万年筆は、手にしてはじめてその価値がわかる道具です。

2万円以下に抑えたいのであれば、Custom 74Custom 91の軟調ペン先(SFM・SM/14K・5号)がオススメです。

3万円まで許容できるのであれば、Custom 742Custom 912の軟調ペン先(SFM・SM/14K・10号)を選びたいところです。


デジタル時代に、あえて手で書くということ

行書と万年筆の関係性について、次の4点を書いてきました。

  • 共通点①:力をいれない
  • 共通点②:線の表情を楽しむ
  • 共通点③:流れが続く
  • 共通点④:抜いて終わる

万年筆で行書を書くと、大人っぽく味わい深い字が、さりげなく書けるようになります。すると、字を書くことそのものが楽しくなります。

デジタル時代のいまだからこそ、手で書く時間を最大限に楽しみたいものです。


行書の学び方

行書の学び方についての過去記事となります。一緒に行書を学んでいきましょう。

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