今回はハタゴイソギンチャクの飼育ポイントの4番目にあげた水質についてです。
元気な生体の入手
光合成に必要な照明
水流
水質の維持
小型水槽環境下でのカクレクマノミとイソギンチャクの共生飼育で使用するプロテインスキマーについてですが、初めになぜイソギンチャクを飼育する上で水質に気を付けなればならないかを考えてみます。
VIDEO
稼働中のマメスキマー3(ブクブク音は効果音です…)
イソギンチャクにとって必要な水質
ハタゴイソギンチャクは水温や水質の変化にも強いイソギンチャクなので水質にあまり神経質になる必要はありませんが、カクレクマノミと比べれば注意が必要です。
共生飼育の環境でカクレクマノミは元気でもハタゴイソギンチャクだけが弱ってしまうことがあります。光量が十分であればイソギンチャクが弱る原因は水質の可能性が高いです。
ハタゴイソギンチャクが縮んでしまった場合などには思い切って水槽の海水を2/3以上入れ替えてみましょう。急激な水質変化も生体に影響がありますが、水質改善には大量の水替えの方が効果的です。
しかし、なぜカクレクマノミが元気な環境でもハタゴイソギンチャクだけが弱ってしまうのでしょうか。「カクレクマノミの飼育は簡単?」では生物ろ過のサイクルを以下のように記載しました。
カクレクマノミとハタゴイソギンチャクを飼育している水槽は、餌の食べ残しやカクレクマノミの糞で水槽内には有害なアンモニア(NH3/NH4+)が発生します。アンモニア(NH3/NH4+)を亜硝酸(NO2)に変化させるバクテリアと亜硝酸(NO2)を硝酸塩(NO3)に変化させる2種類のバクテリアによって水槽内の水は濾過されます。
【引用】「カクレクマノミの飼育は簡単?」
水槽の中では生物ろ過によってできた硝酸塩は還元(分解)されずに蓄積されます。硝酸塩は魚には比較的害がありませんが、サンゴやイソギンチャクには影響があるといわれています。
理由はサンゴやイソギンチャクと共生している褐虫藻にありそうです。褐虫藻は光合成をする植物プランクトンです。そして植物に必要な三大栄養素は「窒素」「リン」「カリウム」で、硝酸塩(NO3)には窒素が含まれています。
また水槽内では食べ残しや糞からリンも発生します。褐虫藻にとっては栄養過多の状態の水質は生息しづらい環境なのでしょうか。ウィキペディアには以下のように記載されています。
硝酸塩はアンモニアや亜硝酸塩よりは毒性が低いものの、濃度が30ppmに達すると生長の阻害や免疫系の阻害を起こすことがあり、水棲生物に悪影響を及ぼす。(中略)高濃度の硝酸塩は藻類の増殖をも引き起こす。カリウムやリン酸塩、硝酸塩などの栄養素が増加すると富栄養化の原因となる。これは低酸素状態の原因ともなり、生態系においてある種の生物がほかのものより圧倒的に増殖する現象の引き金となる
【引用】ウィキペディア 硝酸塩
富栄養化した水槽では苔が多く生え、酸素不足の原因にもなります。汲んできた海水を測定するとNO3検出されることはありません。しかし水槽のNO3の値は20-40ppmの間くらいでした。「あれ、意外と高い?」
硝酸塩とリン酸塩を減少させる
水質に神経質になる必要がないと書きましたが、その理由は数値を気にしだすと「生体を元気に維持する」という本来の目的から、手段である数値を下げることに主眼をおいてしまいがちになるからです。
また水質のチェック項目としては pH,KH,NO3などがあり色々と気になってしまいます。先ずは、NO3(硝酸塩)の濃度に気をつければカクレクマノミとイソギンチャクの長期共生飼育ができるのではないかと思います。
硝酸塩を抑えるためには幾つかの方法がありますので下記について順番に説明します。
ただ硝酸塩の除去(脱窒)については水族館でも大きな課題で、今までは一定量の新しい海水を注入する方法がとられてきました。
ここ数年で嫌気性バクテリアを活用して飼育水中の硝酸を窒素ガスとして除去する脱窒システムがやっと開発され、都心にある水族館で水替えの量を減らすために導入が始まったばかりです。
しながわ水族館では大洋建設が開発した脱窒装置を、すみだ水族館では、大成建設と長岡技術大学による産学協同による脱窒装置が使われているようですが、プロの世界ですら水槽環境下での脱窒は難しいということです。
リアクティブな対処
発生したものを除去するというのが対処方です。自然の環境では還元サイクルによって硝酸塩は窒素と酸素に分解されますが、水槽の中でこの還元サイクルを維持するのは難しいようです。そこで一時的にも発生した硝酸塩を下げる方法が「物理的に除去する」「生物的に除去する」という方法です。
物理的に除去する
一番簡単で確実な方法は水替えによる蓄積された硝酸塩の物理的な除去です。これが最も確実で効果的な方法です。ハタゴイソギンチャクの飼育を始めてからは2週間に1回、1/3から半分ぐらいの水替えをしています。春と秋はエギングに出かけたついでにポリタンクに海水を汲んできていますが、人工海水を作ろうと思うと結構面倒です。
生物的に除去する
嫌気性バクテリアの定着は難しいとありますが、ひとつは有機炭素源であるエタノールや酢酸を添加することによって還元バクテリアを急激に増殖させることによって水の栄養分(硝酸塩とリン酸塩)を消費させる方法です。
AQUA GEEK AZ:NO3 、Red See NO3:PO4-X などが有名ですが、還元バクテリアの活性化によって水の栄養分だけではなく、酸素も消費されるのでエアレーションのためにプロテインスキマーが必要とあります。
もうひとつは、嫌気性バクテリアそのものを添加する方法で コトブキ ドクターバイオ60 などを使います。
しかし、嫌気性バクテリアはそもそも酸素がないところでしか繁殖できないので嫌気性と称されているのですが、酸素が溶け込んでいる水槽の中で定着するのでしょうか?
ドクターバイオの説明は下記のようにあります。
硝酸を窒素ガスに変える働きをするバクテリアは従来、酸素が溶け込んだ環境下では繁殖できませんしたが、本製品では酸素が溶け込んだ環境下でも繁殖を可能にしています。(国内特許取得!)
本当に有酸素の環境下で還元バクテリアを定着させることができるのであれば活気的です。効果が3ヶ月とありますが、実売価格が1,000円を切っていますので手軽に試せそうです。
硝化-還元ろ過装置
最近、気になっているのがバイオラボット株式会社から発売されているトットパーフェクトフィルターです。
「フィルターの形状と効率の良い嫌気性バクテリアの餌を開発したことにより、硝化と還元を同一ろ過槽内で実現した世界初のフィルターです」とあります。
小型水槽用のトット パーフェクトフィルター ミニミニ(SS型) では、写真の右から順番に粗目スポンジ(A筒用) → 弱アルカリ性・多孔質セラミックろ材(B筒用)→弱アルカリ性・多孔質セラミックろ材(C筒用)→弱アルカリ性・多孔質セラミックろ材(C筒用)→嫌気性バクテリアのろ材&餌(D筒用)となっていて、ろ材は使い捨てタイプのカートリッジ式です。
この「ろ過装置」のポイントは嫌気性バクテリアに硝酸塩を分解させるために酸素の含まれない水を連続して送り込むことができる濾過槽で餌となる嫌気バクテリア要素を含んでいむ、写真左のD筒用のトットバクトフードです。以下のように説明があります。
嫌気性バクテリア用の濾材であると同時にその餌となります。本ろ過器の最終段階で使用し、本商品の最大の特長を実現するための要となるものです。この濾材は嫌気性バクテリアによって消費され徐々に目減りします。
価格も小型水槽用(S型 or SS型)であれば7,600円(税別)と手が出ない金額ではありませんし、使い捨てタイプのカートリッジのメンテナンスコストもSS型で年間¥14,000 程度です。
一見高く思えますが、エアーコンパクトのフィルター交換代と比べても大差ありません。またカートリッジ内のスポンジやろ材が洗浄できればもう少し交換時期を延ばすこともできそうです。
交換目安
単価
年
A筒 4-5ヶ月(2.5回/年)
¥840
840x2.5=2,100
B筒
4-5ヶ月(2.5回/年)
¥735
735x2.5=1,838
C筒 6-7ヶ月(2回/年)
¥735
735x2.5=1,838
C筒
6-7ヶ月(2回/年)
¥735
735x2.5=1,838
D筒
7-10ヶ月(1.2/年)
¥1,995
1,995x1.2=2,394
Total
¥ 13,946
Source: ろ材カートリッジの交換目安(http://www.totto.co.jp/rozai_koukan.html)
※実はこのブログを書いている途中でトット パーフェクト フィルター ミニミニ(SS型)を購入してしまいました。使用感や効果などについてはまた別途記載します。
プロアクティブな対応
糞や食べ残しのタンパク質が分解されてアンモニアとなりますので、これらが腐敗し分解されてアンモニアが発生する前にプロテインスキマーで除去する方法です。葛西臨海公園の水族館にも大きなプロテインスキマーがありました。
プロテインスキマー
プロテインスキマーは、名前の通りプロテイン(タンパク質)をすくい取る機器です。仕組みは至ってシンプルで微小な泡を発生させて、泡の表面に有機物などを付着させて除去します。
海水は粘着力があるので攪拌されると泡立ちます。波打際の岩場で泡立っているのと同じ原理です。この泡が汚れを付着させるのです。また汚れを吸着させる泡を発生させろことでエアレーションの役割も果たしています。
プロテインスキマーの泡の生成方法にはエアリフト式とベンチュリー式の2種類があります。
エアリフト式はエアポンプから送られてきた空気をウッドストーン(木片)に通して細かい気泡を生成する方法です。原理は簡単なのですが、ウッドストーンは定期的な交換が必要になります。
またベンチュリー式はポンプ内のインペラーで空気をかき混ぜて細かな泡を発生させる方式です。エアリフト式に比べて高パワーで安定しているとあります。
マメデザイン マメスキマー3
30cm程度の小型水槽に取り付け可能なプロテインスキマーで、且つインテリア・アクアリウムとしての見た目を重視するとマメデザインのマメスキマー3 ぐらいしか選択肢がありません。
他の検討候補としては、エアリフト式では「プロテインぷちスキマー 」、ベンチュリー式では「プリズムスキマーデラックス 」を考えましたが、デザイン性を重視してマメスキマー3 にしました。
マメスキマー3 を購入する決め手となった惹句は以下の3点です。
小型でシンプル、高品質なガラスを使用
水槽の景観を損なわない機能美を重視した設計
除去した汚水を乾燥させずに外部タンクに送出することで汚れのこびり付きを防御
しかし、マメスキマー3 を購入するにあたっての不安(不満)要素もありました。
エアポンプが別購入だし、価格がちょっと高い
本当に汚れが取れるの?
静音なの?
価格については価値観によると思いますので、どこで納得するかです。汚れがきちんと取れるかについては、ちゃんと使っていると結構いい感じで汚水が取れます。
設置して直ぐはエア量の調整がよくわからずオーバースキミングとなり、きれいな海水がタンクに溜まってしまいました。
オーバースキミングにならないコツは管の細くなる部分までで気泡がとまるようにしておくことです。
最初から気泡が上部まで達していないと不安になりますが、汚れた気泡は次第に上まであがるようになります。説明書にも下記のように説明があります。
水質にもよりますが、半日ほどで 汚れて割れにくくなった泡がサブタンクへ排出されます。飼育水が汚れている場合、1日で約1cm ほどの汚水がサブタンクに溜まります。
また気泡が安定しない場合は、本体の排出口からサブタンクへのホースのたるみを確認してください。たるみがあるとその部分に水が溜まり、本体の泡が大きく上下してしまいます。
こちらも説明書に注意事項として説明されていました。やっぱり説明書はよく読まなければなりませんね。その後は安定して稼働しています。
次に音についてです。Youtubeにアップした動画の音はイメージですが、プロテインスキマーってボコボコとうるさいのではないかというイメージがありましたが、実際にはマメスキマー自体の音はほとんどしません。
しかし、エアポンプの音は気になるレベルです。マメスキマー3とエアポンプがセットになっていた商品を購入したのですが、付属のアデックス X101エアーポンプ は、エーハイム アクアコンパクト2004に比べるとかなり音が大きいです。
推奨されているアデックスX101 と同程度の性能がある水心SSPP 3S はamazonでの評価も高いですが、どうなのでしょうか?
音以外での使用後の不満点としては、
本体と汚水が流れる中部は結構汚れが目立つ
洗浄しづらい形状
汚水排出分の海水の補給
という点です。汚れについては乾燥式のプロテインスキマーと比べれば少ないのでしょうが1週間に1度洗浄しています。
しかし、マメスキマー本体もタンクも細長く洗いづらい形状です。仕方がないのでマメシリーズ専用の大・中・小・極小の4本セットのクリーニングブラシ を購入しました。ブラシを使うとスキマー本体の排出口など洗いづらいところの汚れも簡単にきれいにすることができます。
あとは、定期的に海水の補給が必要になることでしょうか。これもプロテインスキマーを使うのであれば仕方がないことなのかもしれませんが、1週間でコップ1杯程の補給が必要となります。
つまりメンテナンスは週に1度、洗浄と海水の補給ということになります。マメウッドストーン は1~2ヶ月で交換とありますが、泡が弱くなったら交換です。
最近の水槽事情
これが一旦完成したカクレクマノミとイソギンチャクの共生飼育をしている水槽レイアウトです。イソギンチャクの光合成用LEDライト以外は右側に並べています。
奥からGEX ICオートヒーター DS65 、GEX フラットビーム オーロラ (ほとんど点灯してません)、エーハイム アクアコンパクト2004 、イーロカ PF-201 、マメデザイン マメスキマー3 、エヴァリス きっちり計れる水温計 となっています。