スチールペン先のソフトニブ(軟調ペン)ってどうなんだろう――。
鉄ニブで軟調… “鉄軟”!? そんな言葉遊びと好奇心から、WANCHER「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」を購入しました。
万年筆を使い慣れてくると、次第に“軟らかいペン先”に惹かれるようになります。しかし、金やイリジウムの価格高騰もあり、金ペンの価格は年々上がるばかりで、気軽に手を伸ばしにくい存在になってきました。
それでも多くの万年筆ユーザーは、あえて柔らかいペン先を求め続けます。
では、なぜ私たちはペン先に“しなり”や“柔らかさ”を求めるようになるのでしょうか。
ソフトニブとフレックスニブは違う
「軟らかいペン先」と聞くと、どうしても同じようなものとして語られがちですが、ソフトニブとフレックスニブは構造も役割もまったく異なります。
どちらも“しなるように見える”という点では共通していますが、書き心地や線の変化、使い方はまったく別の方向を向いています。
ソフトニブは筆記時の“クッション性”や“しなやかさ”を楽しむためのもの。一方、フレックスニブは筆圧による線の太細を大きく生み出し、筆のような表現をするためのものです。
見た目は似ていても、実は書き味も目的も大きく違うのです。
ソフトニブの特徴
ソフトニブは、筆圧をかけずに書いたときに“わずかにしなる”ような感触を持つペン先です。最大の魅力は、書き味がやわらかく、指先に心地よい弾力が返ってくること。
線の太さが大きく変わるわけではありませんが、さりげない揺らぎが文字に自然な表情を与えます。筆記のリズムに寄り添ってくれる、独特の“しっとり感”も魅力のひとつです。
具体的には次のような特徴があります。
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軽い筆圧で書ける
紙に押し付けなくてもインクが自然に落ち、手が疲れにくい。
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しなやかな弾力がある
ペン先がほんの少しだけ沈み、書き始めや書き終わりがやわらかな表情になる。
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線の太さはほとんど変わらない
線の強弱を楽しむためのニブではなく、書き心地のやわらかさにフォーカスした構造。
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日常筆記に向いた穏やかな性格
手帳、ノート、日記などの普段使いで真価を発揮する。
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日本語の筆記に相性が良い
とめ・はね・はらいの微細な動きを、自然な揺らぎとして受け止める。
ソフトニブは現代の硬めのペン先の中で、万年筆らしいしなやかさを味わえる存在ですが、線の強弱を楽しむためのものではありません。
その役割はあくまで、“書くことそのものを気持ちよくしてくれるニブ” にあります。
また、軟調ペン先を使うようになって初めて、“筆圧をかけないで書く”という万年筆本来の書き方を実感できました。
力を抜いて書けるので手が疲れず、自然と滑らかに筆が運ぶ――そんな心地よさを教えてくれるのがソフトニブです。
日本の万年筆メーカーでは、下記のペン先でやわらかさを楽しめます。
| メーカー | モデル | ニブ |
|---|---|---|
| パイロット | カスタムシリーズ | SF(細軟) / SFM(中細軟) / SM(中軟) |
| ELABO(エラボー) | EF / F / M / B | |
| プラチナ万年筆 | Century #3776 | SF(ソフトファイン:細軟) |
| セーラー万年筆 | プロフェッショナルギア | 21K大判ニブ |
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ELABO のペン先は、独自形状による弾性のある"大きなしなり"が特徴ですが、普通に書いている中では、スリットが大きく開いて線の強弱を生むフレックスニブではなく、あくまでもソフトニブに近い位置づけです。
- Century #3776 SF は、ペン先そのものは大きくしなりますが、プラチナ特有のしっかりした芯(腰)があるため、書き味はややカリカリとした繊細なタッチです。スリットの開きは小さく、線の太さやインクの濃淡の変化は控えめで、表情よりも安定性を重視した柔らかさが特徴です。
- プロフェショナルギアの21K大判のペン先 は、軽いタッチでも反応するフェザータッチが特徴で、わずかな線の強弱やインクの濃淡を楽しめます。一方で、しなり量は控えめで、芯のあるしっかりした硬さを保っており、安定した筆致を重視した書き味です。
フレックスニブの特徴
フレックスニブは、筆圧をかけたときにペン先のスリットが大きく開き、線の太さが変化するように設計されたペン先です。
繊細な細線から力強い太線までを一本で描けるため、“線の表情を楽しむためのニブ” と言えます。
ソフトニブの「しなやかな書き心地」とは違い、フレックスニブは線そのものの強弱やインクの濃淡による変化をつけることを目的としています。
これは、日本語の美しさを支える「とめ・はね・はらい」「縦横のメリハリ」「文字の抑揚」 といった要素とも相性がよく、筆で書いたときのような“息づかい”が生まれるのがフレックスニブの魅力です。
具体的には次のような特徴があります。
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筆圧でスリットが開く構造
ペン先のスリットが大きく広がり、細い線から太い線まで、明確なラインバリエーションが生まれる。
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線の強弱(太細)がはっきり出る
アップストロークは細く、ダウンストロークは太く。筆記体や装飾文字だけでなく、日本語の「とめ・はね・はらい」を美しく見せる。
-
少ない筆圧でしなる
良質なフレックスニブは、わずかな力で自然に開くため、太線も滑らかに出せる。
-
使いこなすには慣れが必要
長く筆圧をかけ続けると“レールアウト”(インク切れ)が起きやすく、書き手のコントロールが求められる。
-
文字に強い表情をつけられる
行書、筆記体など、書く文字に動きや抑揚を持たせたい場面 で力を発揮する。
フレックスニブは、ソフトニブのような“しっとりした書き心地”ではなく、“線の変化を積極的に楽しむためのニブ” です。
そのため日常筆記よりも、「書く表現」や「筆跡のデザイン」に興味がある人に向いています。
日本の万年筆メーカーでフレックスニブを現行ラインナップとして提供しているのは、PILOTだけです。FA(Falcon)ニブは、毛筆のように線の強弱がはっきり出る希少な存在で、日本語の筆記にも表現力を与えてくれます。
PILOTの下記モデルでFA(Falcon nib)が選択できます。
| モデル | FAニブ選択可 | ニブサイズ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Custom 742 | ✅ | #10 | 軽快・扱いやすい |
| Custom 743 | ✅ | #15 | 安定感・筆感が最も強い |
| Custom Heritage 912 | ✅ | #10 | 現代的デザイン・やや軽め |
歴史的に見れば、つけペンはフレックスニブだった
万年筆が登場する以前、筆記の主役はディップペン(つけペン)でした。
当時はスパンサリアンやコッパープレートなど、線の太細がはっきりした筆記体が一般的で、その書体を美しく書くためには 柔らかくしなるペン先=フレックスニブ が欠かせませんでした。
| Created by GPT5 |
薄いスチールで作られたペン先は、筆圧をかけるとすぐにスリットが開き、細い線から力強い太線まで自在に描けるようになっていました。
最初の万年筆も、実はフレックスニブだった
万年筆の原型をつくったウォーターマン(WATERMAN)も、例外ではありません。19世紀末~20世紀初頭にかけて作られた初期のウォーターマンには、つけペン文化を引き継ぐ、柔らかくしなるフレックスニブ が搭載されていました。
その代表例が、ヴィンテージ万年筆として今も人気の WATERMAN #52。
- 1920年代の代表モデル
- 黒のハードラバー軸にゴールドのクリップ
- ペン先は柔らかくしなる14Kゴールド
- わずかな筆圧で太線が生まれる、本物のフレックス
現在でも「真のフレックス(True Flex)」の象徴として語られるほど、しなり・反発・線の強弱の美しさ を備えた名品です。
こうした欧米のペン文化の影響は、日本の万年筆づくりにも及びました。
国産万年筆メーカーであるパイロット、プラチナ、セーラーの黎明期(1920〜1930年代)でも、柔らかめでしなる金ニブ が数多く作られており、当時は今よりずっと“しなりのあるペン先”が一般的でした。
しかし、戦後になるとボールペンの普及とともに筆記習慣が大きく変化します。
筆圧を書き込む筆記具が主流になったことで、万年筆にも耐久性や安定性が求められ、徐々に硬いペン先が主流へと移っていきました。
まずは、軟調ペン(ソフトニブ)から――筆圧を抜く書き方を身につける
つけペンの時代から受け継がれた“しなるペン先”は、文字に表情を与える一方で、扱いには繊細さが求められます。
現代のように筆圧を書き込む筆記具に慣れた私たちにとって、いきなりフレックスニブを使いこなすのは難しいのが正直なところです。
そこで大きな助けになるのが 軟調ペン(ソフトニブ) です。
ソフトニブは、フレックスのように派手に開くわけではありませんが、わずかな“しなり”と“弾性”を通して 筆圧を抜いて書く感覚 を自然に教えてくれます。
自分も PILOT Custom Heritage 912 SM(中軟)を使って、初めて、
「あ、力を入れないほうが万年筆は気持ちよく書けるんだ」
という感覚を実感できました。
強く押し付けるクセが残っていた頃はペン先が引っかかることもありましたが、力を抜くと紙を滑るようにペン先が動き、手が疲れず、書くことそのものが軽くなるのを感じました。
すべてのソフトニブが“筆圧からの転換”に向くわけではない
軟調ペンは万年筆本来の書き方を教えてくれる存在ですが、プラチナ#3776 SF やパイロットの ELABO のような大きくしなるニブは、強い筆圧で育ってきた人にとって扱いが難しい場合があります。
- ペン先が沈み込みすぎる
- 思わぬ方向へしなって不安定に感じる
- 力を抜く前に“書きづらい”と感じてしまう
- 書き癖が強いほどコントロールが難しい
筆圧のある書き方から、いきなり 非常に柔らかいソフトニブ に移行すると、「気持ちよく書ける」よりも前に “扱いづらさ” を感じてしまいます。
その結果、「ソフトニブって書きづらい」という誤解につながることもあります。
これでは本末転倒です。
"筆圧を抜く"ための最良の入口は、穏やかな軟調ニブ
特にオススメなのが、パイロットの Custom 742 または Custom Heritage 912 に搭載される10号ペン先の SM(中字・軟)。 やわらかさは十分にありながら、しなりすぎず、適度なコシを保つため、筆圧が自然に抜けていく“絶妙なバランス”を持つ軟調ペン先です。
また、万年筆価格が高騰している昨今、742や912が予算的に厳しい場合は、より手頃な Custom 74 SM も候補に入ります。
パイロットの“やわらかいけれどコシがある” バランス型のソフトニブは、
- 力を抜いたときに気持ちよく書ける
- 書くほど自然に筆圧が抜ける
という特性があり、筆圧のある書き癖を持つ現代の書き手にとって、“力を抜いて書く万年筆らしい書き方”へ移行するための、ちょうど良いステップになります。
そして、一本目の軟調ペン先を選ぶのであれば、万年筆らしい線の伸びやかな表情をもっとも素直に味わえる SM(中字・軟) が最適です。
筆圧を抜くための万年筆の持ち方
軟調ペンを使うと筆圧を抜いて書く感覚がつかみやすくなりますが、そもそも “万年筆の持ち方” が間違っていると、どんなペン先を使っても筆圧は抜けません。
繰り返し掲載していますが、とても大事なので改めて記しておきます。
- 万年筆の持ち方
- 手の力を抜き、手首は 90° くらいの角度にする
- 中指の指先の横腹と親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
- ペン先の刻印(ロゴ)は必ず上向き
- 親指と人差し指で軽く支える
- ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる
下記がGPT5で生成した正しい万年筆の持ち方です。
| 万年筆の正しい持ち方:Created by GPT5 |
筆圧をかけない書き方をするには、万年筆を軽く持つことが何よりも重要です。強い筆圧の原因の多くはペンを強く握る持ち方にあります。
下の例では、ペンを持つ指に力が入りすぎて、人差し指が反り返ってしまっている悪い例です。実は、自分も以前はこのような持ち方をしていて、無意識に強く握り込んでいました…。
| ペンを持つ手に力が入ってしまっている例:Created by GPT5 |
書道家・大江静芳氏の動画では、万年筆の持ち方がとても分かりやすく解説されています。文字や写真だけではイメージしづらい方は、こちらの動画を参考にしてみてください。
ソフトニブとフレックスニブの違いをまとめると
万年筆に慣れてくると、自然と“軟らかいニブ”に魅力を感じるようになります。ソフトニブは、筆圧をかけずに書くという万年筆本来の心地よさを味わえるニブです。
一方、フレックスニブは線の太さを大きく変化させることができ、筆のような抑揚で日本語を美しく表現できるニブです。
以下にソフトニブとフレックスニブの違いをまとめます。
| 特徴 | ソフトニブ | フレックスニブ |
|---|---|---|
| スリット開き幅 | 少ししなるが、スリットは大きく開かない | 筆圧で大きく開き、線幅が大きく変化する |
| 筆跡の特徴 | 線幅の変化は控えめで、安定した整った筆跡 | 細線〜太線の差が大きく、表情豊かな筆跡になる |
| 筆圧の必要度 | 筆圧をかけずに軽く書ける | 線の変化を出すには筆圧コントロールの習熟が必要 |
| インクフロー | 均質で安定しており、日常筆記に向く | 開きすぎるとインクが追いつかずスキップすることがある |
| 書き味 | 柔らかくしなやかな書き味で扱いやすい | 表現力は高いが、使いこなしには慣れが必要 |
WANCHERのステンレス・ソフトニブとは
WANCHERの 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を購入したのは、
「スチール製のソフトニブって実際どうなんだろう?」
という純粋な興味からでした。
結論としては、
価格を抑えながら、ソフトニブ的な“しなり”を体験できる貴重な選択肢
だと感じています。
「#6 JOWO・ステンレスソフト」は、ペン先の両側にサイドカットがあり、楕円に削られています。このサイドカットされた部分より先で曲がる(しなる)構造になっています。
字幅はF:細字です。
ソフトニブなのでしなりはしますが、スリットが大きく開くわけではありません。そのため、フレックスニブのようなダイナミックな線の強弱ではなく、“さりげない表情の変化” にとどまります。
WANCHERのステンレスソフトニブは、金ペンのようなしなやかな弾力とは違いますが、スチールとは思えない“意外な気持ちよさのあるしなり” を持っています。
- 押し込みすぎない範囲で、ほどよくしなる
- スチールとは思えない軽やかなしなり
- インクフローもよく、“紙の上を滑る感覚” を味わえる
といった特徴があり、WANCHER のステンレスソフトニブは、
「万年筆らしい柔らかさを味わいたい人」に最適で、同時に “筆圧を抜く書き方” を身につけるステップとしても優れた一本 と言えます。
金ペンの軟調ニブやフレックスニブへ進む前の、現実的で、楽しい入口のひとつ となるペン先です。
WANCHERのソフトニブの購入は
WANCHER公式サイトでは、世界樹 や カレイド のペン先として「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を選択できます。このオプションで購入すると、金ペン軟調ニブで比較的手頃な PILOT Custom 74 SM(中軟)よりも低価格で“ソフトな書き味”を試せる点が魅力です。
また、すでに JOWO #6 に対応した万年筆 を持っている場合は、交換用として 「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」 を購入し、ペン先を付け替える方法もあります。
※ 国産では WANCHER、海外では TWSBI が、JOWO #6 に対応した万年筆をラインナップしています。
ただし、万年筆によっては ペン芯の形状や個体差により相性が出る場合 があるため、ニブ交換は自己責任でお願いします。
ちなみに自分は、WANCHER 世界樹・サンダルウッド のニブを交換用の 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 に付け替えて使っています。
ステンレス・フレックスニブはどうなのか?
ステンレス・ソフトニブの書き心地が想像以上に良かったので、次に気になっているのがステンレス製のフレックスニブです。
現在、WANCHERの公式サイトには「#6 ニブ・ワンチャー真玉ストリームニブ」 という、ステンレスのセミフレックス「サンセットニブ」をブレード構造に改良したフレックスニブが掲載されています。
ただし残念ながら、まだ販売前の段階。
ソフトニブが先行して発売された流れを見ると、いずれ販売される可能性は高く、楽しみに待ちたいところです。
一方、Amazonには、MONTEVERDE(モンテベルデ)製の「#6 JOWO 用ステンレス・フレックスニブ」が販売されています。
もちろん、書き心地だけで言えばPILOT Custom 743 の FA(Falcon)ニブのほうが上質であることは間違いありません。
それでも、
「スチールでどこまでフレックスを再現できるのか?」
という好奇心は大いに刺激されます。
嗚呼、物欲の神様……。
まとめ:自分だけの軟調ペンを選ぶ楽しみ
万年筆を使い続けるうちに、書き心地の違いや、字の表情の変化 に自然と目が向くようになります。
その入口として、ソフトニブ(軟調ペン) が最適です。
しなりすぎず、筆圧を抜いたときの心地よさを教えてくれる——それは現代の硬めの万年筆では得られない、万年筆らしい魅力です。
一方で、文字の表情を大きく変えたいなら フレックスニブ という選択肢があります。線の太さが変わり、日本語にも筆記体にも、筆のような抑揚を与えてくれる特別な存在です。
そして今回のような、JOWO #6 のステンレスソフトニブ は、金ペンへ進む前の“現実的で楽しいステップ”として、とても良い体験を与えてくれます。
スチールでもしなる。けれど、扱いやすい。その意外性こそが、このニブの魅力と言えるでしょう。
柔らかさを知ることは、書く楽しさを広げること でもあります。
あなたも、自分にとって心地よい一本を見つけてみてください。

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