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Post Date:2026年8月11日 

ステンレスフレックスニブの実力 ── FPR Ultra Flexが生み出す線の表情とは

FPR Ambassador Ultra Flex

ソフトニブとフレックスニブの違いについては「ソフトニブとフレックスニブの違い ── そしてステンレスソフトニブの実力」で書きました。

ソフトニブ(Soft Nib)は、筆圧に対する弾力があり、書き味が柔らかいニブを指します。

一方、フレックスニブ(Flex Nib)は、ペン先がしなって左右に開き、線幅に変化をつけることを目的としたニブです。

- ソフトニブとフレックスニブの違い -
ソフトニブ フレックスニブ
主な目的書き味の柔らかさ線幅変化
しなり適度非常に大きい
線幅変化少ない大きい
筆圧軽くても心地よいコントロールが必要

日本の万年筆メーカーでは、PILOTのフォルカン(FA)が、フレックスニブに最も近い存在です。Custom 743 FA は、軽く筆圧を変えるだけで線幅に変化が生まれ、味わいのある字を書くことができます。

PILOTのフォルカンのようにペン先がしなり、先端が開いて線幅が変わるのは、金ペンだからこそ実現できるものだと思っていました。

しかし調べてみると、ニブの形状や設計を工夫することで、ステンレス製でも優れたフレックスニブが作られていることを知りました。

JoWoにもステンレス製のフレックスニブがありますが、探していたときには入手できませんでした。そこで購入したのが、FPR (Fountain Pen Revolution) の Ultra Flex ニブです。

FPRはアメリカの万年筆ブランドですが、「インド製万年筆を世界へ」という理念のもと、インドのメーカーと協力して万年筆やニブを販売しています。


ステンレスフレックスニブの比較

Amazonでステンレス製フレックスニブを探してみました。以前はなかった中華万年筆などのフレックスニブも見つかりました。

- ステンレス フレックス ニブの比較 -
ニブスリット*1肩の形状ブリーザーホール*2設計の特徴
FPR Ultra Flex非常に長い細く絞り込むなし長いスリットと細いタイン*3で最大の線幅変化を狙う
Noodler's Flex非常に長いやや細く絞る非常に小さいシンプルな構造でタイン*3全体をしならせる
Monteverde OmniFlexやや長い左右に開口部丸穴JoWo #6 OmniFlex。(ニブ単体販売)左右の開口部が特徴
Conklin Flexやや長い左右に開口部ハート現行はJoWo #6 OmniFlex(Amazon掲載写真は初代ニブ)
Majohn Flex非常に長いやや細く絞る三日月形長いスリットと大型ブリーザーホールで柔軟性を確保

*1 スリット(Slit) とは、ペン先の中央に刻まれた細い切り割(切れ込み)のことです。筆圧をかけると、このスリットを挟んだ左右のタインが開き、インクの流れる量が増えることで線幅が太くなります。

*2 ブリーザーホール(Breather Hole) とは、ペン先のスリット終端付近に設けられた穴のことです。丸形やハート形、三日月形などメーカーによって形状はさまざまですが、現在ではインクや空気の通り道というよりも、筆圧によってスリット終端に集中する応力を分散し、ひび割れを防ぐ役割が重要と考えられています。

*3 タイン(Tine) とは、ペン先の中央にあるスリットによって左右に分かれた2本の先端部分のことです。筆圧をかけると左右のタインが開き、その隙間が広がることでインクの流れる量が増え、線幅が太くなります。


FPR Ultra Flex

FPR Ultra Flex(ウルトラフレックス)の最大の特徴は、非常に長いスリットと細く絞り込まれた肩です。一般的なニブよりもスリットを大きく延長することで、左右のタイン全体が長い板バネのようにしなりやすい構造になっています。

さらに、肩から先端にかけて細く絞り込まれた形状により、タインの剛性を低減。少ない筆圧でもペン先が大きく開き、現行のステンレス製フレックスニブの中でもトップクラスの線幅の変化を実現しています。

また、このニブには一般的なブリーザーホールがありません。 代わりにスリットをそのまま延長したシンプルな構造です。スリットを長く取ることで、タイン全体が大きくしなる構造になっています。

肩から先端に向かって複雑な肉抜き加工を施すことなく、「長いスリット」「細いタイン」「細く絞り込まれた肩」という3つの要素で柔軟性を実現しています。シンプルで合理的な設計が特徴です。

FPR Ambassador Ultra Flex nib

こちらは Amazon US商品なので米国発送となります。


Noodler's Flex

Noodler's(ヌードラーズ)の特徴は、根元近くまで伸びた長いスリットの先に小さなブリーザーホールがあることです。左右のタインを長くすることで、ペン先全体がしなりやすい構造にしています。

肩の絞り込みは控えめです。タインにも適度な幅が残されているため、剛性とのバランスを保ちながら柔軟性を確保しています。

非常に小さなブリーザーホールと長いスリットを採用し、タイン全体が板バネのようにしなる構造になっています。複雑な加工を行わず、スリットの長さとニブ形状だけで柔軟性を実現する、非常にシンプルなアプローチが特徴です。

そのため、極端な線幅の変化を狙うというよりは、適度な弾力を持たせたフレックスニブを目指した設計と考えられます。

Noodler's #6 Steel Nib - Flex

こちらは Amazon US商品なので米国発送となります。


Monteverde OmniFlex

Monteverde OmniFlex(モンテベルデ・オムニフレックス)は、ドイツの JoWo社製「#6 OmniFlex」 ニブです。JoWoは世界有数の万年筆ニブメーカーであり、自社ブランドだけでなく、多くの万年筆メーカーへOEM供給を行っています。

最大の特徴は、ブリーザーホールの左右に設けられた大きな開口部です。FPR Ultra Flex やNoodler's Flex のようにスリットを極端に長くしたり、肩を細く絞り込んだりするのではなく、この開口部によって肩の剛性を下げ、ペン先がしなりやすくなるよう設計されています。

スリットは一般的な長さに抑えられ、タインにも十分な幅が残されています。そのため、ペン先全体を大きくしならせるというよりも、左右の開口部によって肩の周辺をたわみやすくする設計です。

Monteverde OmniFlex nib

こちらは 交換用ニブとして販売されており、Amazon US商品なので米国発送となります。


Conklin Duragraph

Conklin公式サイトでは、フレックスニブを搭載した万年筆や交換用ニブは 「JoWo製 #6 OmniFlex」 と案内されています。しかし、Amazonに掲載されている Conklin Duragraph(コンクリン・デュラグラフ) の写真は、現行のJoWo OmniFlexとは異なる形状です。

Original non-JoWo OmniFlex nib

このニブについて調べてみると、Goulet「JoWo OmniFlex Nib Introduction」に JoWo製へ移行する前の Original non-JoWo OmniFlex nib が掲載されていました。この記事は2020年10月に公開されていることから、Conklin OmniFlexニブは、その後 JoWo製へ移行したものと思われます。

Amazonで購入する場合は、旧型フレックスニブが届くのか、それともJoWo製OmniFlexニブが届くのかが分かりません。購入前に販売元へ確認することをおすすめします。


Majohn Flex

Majohn(マジョーン)のフレックスニブの特徴は、長いスリットと三日月形のブリーザーホールです。一般的なニブよりも長いスリットを採用することで、左右のタインがしなりやすい構造となっています。

三日月形のブリーザーホールは、一般的な丸穴よりも開口部が大きく、スリット終端部の応力を分散しながら、長いスリットと組み合わせて柔軟性を確保しています。またスリットはブリーザーホールの先にも続いています。

三日月形の大型ブリーザーホールと長いスリットを活かしながら、柔軟性と扱いやすさのバランスを重視した設計と言えるでしょう。

Majohn Flex nib

こちらの商品は中国からの発送となります。

中華万年筆は、商品写真と異なるニブが届くこともあるため注意が必要です。ただし、Amazonで購入した場合は、商品説明と異なるものが届けば返品・返金の対象になります。


FPR Ultra Flex を選んだ理由

購入当時に入手可能だったステンレス製フレックスニブは、Noodler's Flex と FPR Ultra Flex の2種類でした。

どちらも非常に長いスリットを採用していますが、FPR Ultra Flex は肩の絞り込みがより大きく、タインも細く設計されています。 そのため、より大きな線幅の変化が期待できると考え、FPR Ultra Flex を選びました。

ちなみに、FPR も Noodler's も 「出荷元 / 販売元 Amazon US」となっている Amazon.com の商品です。『配送料・手数料』という欄がありますが、『国際送料無料』としてマイナスされており、アメリカからの配送にもかかわらず送料はかかりませんでした。

FPR Ambassador Black + Steel EF Ultra Flex の価格は、米国公式サイトでは62ドルです。Amazon.co.jp では、執筆時点で1万円前後で販売されています。

商品到着までは2週間ほどかかりました。海外発送なので時間はかかりますが、中華万年筆の購入経験から待ち時間には慣れています。

高級万年筆ではないため、化粧箱も非常にシンプルです。

FPR Ambassador Ultra Flex の化粧箱は簡素

インクカートリッジ2本とコンバーターが付属しています。インクカートリッジは、国際標準規格(Standard International)に対応しているので日本での入手も容易です。

FPR Ambassador Ultra Flex セット内容

キャップの天冠(キャップ上部)には、FPRの万年筆をモチーフにしたロゴがあしらわれています。

FPR Ambassador Ultra Flex 天冠のロゴ

FPR Ultra Flexの実力

ニブには「FPR Flex EF」と刻印されています。事前に写真で確認していたとおり、非常に長いスリットと細く絞り込まれた肩が特徴です。

FPR Ambassador Ultra Flexニブ

また、ニブの側面が大きくえぐられたようなデザインになっていて、裏側から見ると、魚のエラが張ったようにも見える独特な形状です。

FPR Ambassador Ultra Flex nib 裏側

ニブサイズは、PILOTの5号ニブ(Custom 74など)とほぼ同じ大きさです。

Custom 67 と FPR Ambassador Ultra Flex

筆圧を加えて書くと、ペンの先端がたわんでスリットが開き、線幅が太くなります。

FPR Ambassador Ultra Flex の書き味

書き味は、柔らかいというよりも、ペン先の先端に近い部分が「ぐにっ」と曲がるような感覚です。筆圧をコントロールすることで線幅に変化をつけられますが、CUSTOM 743 FAのように自然に変化するというより、自分で意識してペン先を開かせる必要があります。そのため、金ペンのしなやかな弾性とは異なる、加工によって柔軟性を持たせたステンレスフレックスニブらしい書き味だと感じました。

それでも、この価格でここまでの線幅の変化を楽しめるのは大きな魅力です。

FPR Ambassador Ultra Flex で書いた文字

金ペンの価格が毎年のように上がり、気軽に何本も揃えられる時代ではなくなりました。

PILOTも2026年7月の価格改定で、Custom 74が44,000円、Custom Heritage 912は49,500円となりました。もはや「エントリークラスの金ペン」といえる存在ではなくなってしまったように感じます。

だからこそ、ステンレスニブには、素材ではなく設計や加工の工夫で新しい書き味を追求してほしいと思います。

FPR Ultra Flexは、その可能性を十分に感じさせてくれる一本でした。


また物欲の神が降臨

ブログを書くためにステンレスフレックスニブについて調べているうちに、Monteverde OmniFlex が気になる存在になってしまいました。

Wancherで購入した JoWo #6 ステンレスソフトニブ は、価格を考えると非常に完成度が高く、「ステンレスニブもここまで書き味を追求できるのか」と感心させられました。

同じJoWo製の OmniFlex はどんな書き味なのか試してみたくなります。

……気が付いたら、ポチってました。

届いたら、FPR Ultra FlexJoWo OmniFlex の書き味や設計の違いについて書いてみたいと思います。

ステンレスフレックスニブの世界は、思っていた以上に奥が深いようです。

Post Date:2025年11月19日 

ソフトニブとフレックスニブの違い ── そしてステンレスソフトニブの実力

WANCHER 峰万年筆 + JoWo #6 ステンレスソフト

スチールペン先のソフトニブ(軟調ペン)ってどうなんだろう――。

鉄ニブで軟調… “鉄軟”!? そんな言葉遊びと好奇心から、WANCHER「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」を購入しました。

万年筆を使い慣れてくると、次第に“軟らかいペン先”に惹かれるようになります。しかし、金やイリジウムの価格高騰もあり、金ペンの価格は年々上がるばかりで、気軽に手を伸ばしにくい存在になってきました。

それでも多くの万年筆ユーザーは、あえて柔らかいペン先を求め続けます。

では、なぜ私たちはペン先に“しなり”や“柔らかさ”を求めるようになるのでしょうか。


ソフトニブとフレックスニブは違う

「軟らかいペン先」と聞くと、どうしても同じようなものとして語られがちですが、ソフトニブフレックスニブは構造も役割もまったく異なります。

どちらも“しなるように見える”という点では共通していますが、書き心地や線の変化、使い方はまったく別の方向を向いています。

ソフトニブは筆記時の“クッション性”や“しなやかさ”を楽しむためのもの。一方、フレックスニブは筆圧による線の太細を大きく生み出し、筆のような表現をするためのものです。

見た目は似ていても、実は書き味も目的も大きく違うのです。


ソフトニブの特徴

ソフトニブは、筆圧をかけずに書いたときに“わずかにしなる”ような感触を持つペン先です。最大の魅力は、書き味がやわらかく、指先に心地よい弾力が返ってくること

線の太さが大きく変わるわけではありませんが、さりげない揺らぎが文字に自然な表情を与えます。筆記のリズムに寄り添ってくれる、独特の“しっとり感”も魅力のひとつです。

具体的には次のような特徴があります。

  • 軽い筆圧で書ける

    紙に押し付けなくてもインクが自然に落ち、手が疲れにくい。

  • しなやかな弾力がある

    ペン先がほんの少しだけ沈み、書き始めや書き終わりがやわらかな表情になる。

  • 線の太さはほとんど変わらない

    線の強弱を楽しむためのニブではなく、書き心地のやわらかさにフォーカスした構造。

  • 日常筆記に向いた穏やかな性格

    手帳、ノート、日記などの普段使いで真価を発揮する。

  • 日本語の筆記に相性が良い

    とめ・はね・はらいの微細な動きを、自然な揺らぎとして受け止める。

ソフトニブは現代の硬めのペン先の中で、万年筆らしいしなやかさを味わえる存在ですが、線の強弱を楽しむためのものではありません。

その役割はあくまで、“書くことそのものを気持ちよくしてくれるニブ” にあります。

また、軟調ペン先を使うようになって初めて、“筆圧をかけないで書く”という万年筆本来の書き方を実感できました。

力を抜いて書けるので手が疲れず、自然と滑らかに筆が運ぶ――そんな心地よさを教えてくれるのがソフトニブです。

日本の万年筆メーカーでは、下記のペン先でやわらかさを楽しめます。

メーカーモデルニブ
パイロットカスタムシリーズSF(細軟) / SFM(中細軟) / SM(中軟)
ELABO(エラボー)EF / F / M / B
プラチナ万年筆Century #3776SF(ソフトファイン:細軟)
セーラー万年筆プロフェッショナルギア21K大判ニブ

フレックスニブの特徴

フレックスニブは、筆圧をかけたときにペン先のスリットが大きく開き、線の太さが変化するように設計されたペン先です。

繊細な細線から力強い太線までを一本で描けるため、“線の表情を楽しむためのニブ” と言えます。

ソフトニブの「しなやかな書き心地」とは違い、フレックスニブは線そのものの強弱やインクの濃淡による変化をつけることを目的としています。

これは、日本語の美しさを支える「とめ・はね・はらい」「縦横のメリハリ」「文字の抑揚」 といった要素とも相性がよく、筆で書いたときのような“息づかい”が生まれるのがフレックスニブの魅力です。

具体的には次のような特徴があります。

  • 筆圧でスリットが開く構造

    ペン先のスリットが大きく広がり、細い線から太い線まで、明確なラインバリエーションが生まれる。

  • 線の強弱(太細)がはっきり出る

    アップストロークは細く、ダウンストロークは太く。筆記体や装飾文字だけでなく、日本語の「とめ・はね・はらい」を美しく見せる。

  • 少ない筆圧でしなる

    良質なフレックスニブは、わずかな力で自然に開くため、太線も滑らかに出せる。

  • 使いこなすには慣れが必要

    長く筆圧をかけ続けると“レールアウト”(インク切れ)が起きやすく、書き手のコントロールが求められる。

  • 文字に強い表情をつけられる

    行書、筆記体など、書く文字に動きや抑揚を持たせたい場面 で力を発揮する。

フレックスニブは、ソフトニブのような“しっとりした書き心地”ではなく、“線の変化を積極的に楽しむためのニブ” です。

そのため日常筆記よりも、「書く表現」や「筆跡のデザイン」に興味がある人に向いています。

日本の万年筆メーカーでフレックスニブを現行ラインナップとして提供しているのは、PILOTだけです。FA(Falcon)ニブは、毛筆のように線の強弱がはっきり出る希少な存在で、日本語の筆記にも表現力を与えてくれます。

PILOTの下記モデルでFA(Falcon nib)が選択できます。

モデルFAニブ選択可ニブサイズ特徴
Custom 742#10軽快・扱いやすい
Custom 743#15安定感・筆感が最も強い
Custom Heritage 912#10現代的デザイン・やや軽め

歴史的に見れば、つけペンはフレックスニブだった

万年筆が登場する以前、筆記の主役はディップペン(つけペン)でした。

当時はスパンサリアンやコッパープレートなど、線の太細がはっきりした筆記体が一般的で、その書体を美しく書くためには 柔らかくしなるペン先=フレックスニブ が欠かせませんでした。

スパンサリアンとコッパープレート
Created by GPT5

薄いスチールで作られたペン先は、筆圧をかけるとすぐにスリットが開き、細い線から力強い太線まで自在に描けるようになっていました。


最初の万年筆も、実はフレックスニブだった

万年筆の原型をつくったウォーターマン(WATERMAN)も、例外ではありません。19世紀末~20世紀初頭にかけて作られた初期のウォーターマンには、つけペン文化を引き継ぐ、柔らかくしなるフレックスニブ が搭載されていました。

その代表例が、ヴィンテージ万年筆として今も人気の WATERMAN #52

  • 1920年代の代表モデル
  • 黒のハードラバー軸にゴールドのクリップ
  • ペン先は柔らかくしなる14Kゴールド
  • わずかな筆圧で太線が生まれる、本物のフレックス

現在でも「真のフレックス(True Flex)」の象徴として語られるほど、しなり・反発・線の強弱の美しさ を備えた名品です。

こうした欧米のペン文化の影響は、日本の万年筆づくりにも及びました。

国産万年筆メーカーであるパイロット、プラチナ、セーラーの黎明期(1920〜1930年代)でも、柔らかめでしなる金ニブ が数多く作られており、当時は今よりずっと“しなりのあるペン先”が一般的でした。

しかし、戦後になるとボールペンの普及とともに筆記習慣が大きく変化します。

筆圧を書き込む筆記具が主流になったことで、万年筆にも耐久性や安定性が求められ、徐々に硬いペン先が主流へと移っていきました。


まずは、軟調ペン(ソフトニブ)から――筆圧を抜く書き方を身につける

つけペンの時代から受け継がれた“しなるペン先”は、文字に表情を与える一方で、扱いには繊細さが求められます。

現代のように筆圧を書き込む筆記具に慣れた私たちにとって、いきなりフレックスニブを使いこなすのは難しいのが正直なところです。

そこで大きな助けになるのが 軟調ペン(ソフトニブ) です。

ソフトニブは、フレックスのように派手に開くわけではありませんが、わずかな“しなり”と“弾性”を通して 筆圧を抜いて書く感覚 を自然に教えてくれます。

自分も PILOT Custom Heritage 912 SM(中軟)を使って、初めて、

「あ、力を入れないほうが万年筆は気持ちよく書けるんだ」

という感覚を実感できました。

Custom Heritage 912 SM

強く押し付けるクセが残っていた頃はペン先が引っかかることもありましたが、力を抜くと紙を滑るようにペン先が動き、手が疲れず、書くことそのものが軽くなるのを感じました。


すべてのソフトニブが“筆圧からの転換”に向くわけではない

軟調ペンは万年筆本来の書き方を教えてくれる存在ですが、プラチナ#3776 SF やパイロットの ELABO のような大きくしなるニブは、強い筆圧で育ってきた人にとって扱いが難しい場合があります。

  • ペン先が沈み込みすぎる
  • 思わぬ方向へしなって不安定に感じる
  • 力を抜く前に“書きづらい”と感じてしまう
  • 書き癖が強いほどコントロールが難しい

筆圧のある書き方から、いきなり 非常に柔らかいソフトニブ に移行すると、「気持ちよく書ける」よりも前に “扱いづらさ” を感じてしまいます。

その結果、「ソフトニブって書きづらい」という誤解につながることもあります。

これでは本末転倒です。


"筆圧を抜く"ための最良の入口は、穏やかな軟調ニブ

特にオススメなのが、パイロットの Custom 742 または Custom Heritage 912 に搭載される10号ペン先の SM(中字・軟)。 やわらかさは十分にありながら、しなりすぎず、適度なコシを保つため、筆圧が自然に抜けていく“絶妙なバランス”を持つ軟調ペン先です。

また、万年筆価格が高騰している昨今、742や912が予算的に厳しい場合は、より手頃な Custom 74 SM も候補に入ります。

パイロットの“やわらかいけれどコシがある” バランス型のソフトニブは、

  • 力を抜いたときに気持ちよく書ける
  • 書くほど自然に筆圧が抜ける

という特性があり、筆圧のある書き癖を持つ現代の書き手にとって、“力を抜いて書く万年筆らしい書き方”へ移行するための、ちょうど良いステップになります。

そして、一本目の軟調ペン先を選ぶのであれば、万年筆らしい線の伸びやかな表情をもっとも素直に味わえる SM(中字・軟) が最適です。

筆圧ゼロで"ふわっと書き"、紙の上を“無重力散歩”するような心地よさを味わってみてください。


筆圧を抜くための万年筆の持ち方

軟調ペンを使うと筆圧を抜いて書く感覚がつかみやすくなりますが、そもそも “万年筆の持ち方” が間違っていると、どんなペン先を使っても筆圧は抜けません。

繰り返し掲載していますが、とても大事なので改めて記しておきます。

万年筆の持ち方
  1. 手の力を抜き、手首は 90° くらいの角度にする
  2. 中指の指先の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印(ロゴ)は必ず上向き
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

下記がGPT5で生成した正しい万年筆の持ち方です。

万年筆の正しい持ち方
万年筆の正しい持ち方:Created by GPT5

筆圧をかけない書き方をするには、万年筆を軽く持つことが何よりも重要です。強い筆圧の原因の多くはペンを強く握る持ち方にあります。

下の例では、ペンを持つ指に力が入りすぎて、人差し指が反り返ってしまっている悪い例です。実は、自分も以前はこのような持ち方をしていて、無意識に強く握り込んでいました…。

指に力が入いる悪い万年筆の持ち方
ペンを持つ手に力が入ってしまっている例:Created by GPT5

書道家・大江静芳氏の動画では、万年筆の持ち方がとても分かりやすく解説されています。文字や写真だけではイメージしづらい方は、こちらの動画を参考にしてみてください。


ソフトニブとフレックスニブの違いをまとめると

万年筆に慣れてくると、自然と“軟らかいニブ”に魅力を感じるようになります。ソフトニブは、筆圧をかけずに書くという万年筆本来の心地よさを味わえるニブです。

一方、フレックスニブは線の太さを大きく変化させることができ、筆のような抑揚で日本語を美しく表現できるニブです。

以下にソフトニブとフレックスニブの違いをまとめます。

特徴 ソフトニブフレックスニブ
スリット開き幅少ししなるが、スリットは大きく開かない筆圧で大きく開き、線幅が大きく変化する
筆跡の特徴線幅の変化は控えめで、安定した整った筆跡細線〜太線の差が大きく、表情豊かな筆跡になる
筆圧の必要度筆圧をかけずに軽く書ける線の変化を出すには筆圧コントロールの習熟が必要
インクフロー均質で安定しており、日常筆記に向く開きすぎるとインクが追いつかずスキップすることがある
書き味柔らかくしなやかな書き味で扱いやすい表現力は高いが、使いこなしには慣れが必要

WANCHERのステンレス・ソフトニブとは

WANCHERの 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を購入したのは、

「スチール製のソフトニブって実際どうなんだろう?」

という純粋な興味からでした。

結論としては、

価格を抑えながら、ソフトニブ的な“しなり”を体験できる貴重な選択肢

だと感じています。

#6 JOWO・ステンレスソフトのしなり具合

「#6 JOWO・ステンレスソフト」は、ペン先の両側にサイドカットがあり、楕円に削られています。このサイドカットされた部分より先で曲がる(しなる)構造になっています。

字幅はF:細字です。

#6 JOWO・ステンレスソフト

ソフトニブなのでしなりはしますが、スリットが大きく開くわけではありません。そのため、フレックスニブのようなダイナミックな線の強弱ではなく、“さりげない表情の変化” にとどまります。

#6 Jowo ソフトニブ の筆致

WANCHERのステンレスソフトニブは、金ペンのようなしなやかな弾力とは違いますが、スチールとは思えない“意外な気持ちよさのあるしなり” を持っています。

  • 押し込みすぎない範囲で、ほどよくしなる
  • スチールとは思えない軽やかなしなり
  • インクフローもよく、“紙の上を滑る感覚” を味わえる

といった特徴があり、WANCHER のステンレスソフトニブは、

「万年筆らしい柔らかさを味わいたい人」に最適で、同時に “筆圧を抜く書き方” を身につけるステップとしても優れた一本 と言えます。

金ペンの軟調ニブやフレックスニブへ進む前の、現実的で、楽しい入口のひとつ となるペン先です。


ステンレスソフトニブは軸が重たい方が書きやすい【追記:2026.8】

万年筆は普段、できるだけ筆圧をかけずに書いています。ただ、ステンレス製ソフトニブは、少し筆圧をかけた方がペン先のしなりを感じやすく、書きやすいように感じていました。

そこで、軸自体にもう少し重さがあれば、意識して筆圧をかけなくても自然にペン先へ力が伝わるのではないかと考え、WANCHER 峰万年筆にステンレスソフトニブを装着してみました。

WANCHER 峰万年筆 + JoWo #6 ステンレスソフト

結果はこちらの方が断然書きやすく感じます。世界樹は18g、峰万年筆は25gと、その差はわずか7gですが、筆記時の感覚はかなり変わりました。軸の重さによって、無理に筆圧を加えなくてもペン先が自然に紙へ乗るようになったためだと思います。

一方、世界樹には渓流ニブを装着しました。こちらは軸が少し軽くなっても書き味への影響はほとんど感じません。渓流ニブらしく、静かな筆致の中にも大胆な文字の表情を生み出してくれます。

Wancher JoWo #6 ステンレスソフト と Wnacher 渓流ニブ

WANCHERのソフトニブの購入は

WANCHER公式サイトでは、世界樹カレイド のペン先として「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を選択できます。このオプションで購入すると、金ペン軟調ニブで比較的手頃な PILOT Custom 74 SM(中軟)よりも低価格で“ソフトな書き味”を試せる点が魅力です。

また、すでに JOWO #6 に対応した万年筆 を持っている場合は、交換用として 「#6 JOWOニブ・ステンレスソフト」 を購入し、ペン先を付け替える方法もあります。

※ 国産では WANCHER、海外では TWSBI が、JOWO #6 に対応した万年筆をラインナップしています。

ただし、万年筆によっては ペン芯の形状や個体差により相性が出る場合 があるため、ニブ交換は自己責任でお願いします。

残念ながら自分が WANCHER 世界樹・サンダルウッド を購入したときは、オプションでペン先をステンレスソフトに変更できませんでした。そのため、交換用の 「#6 JOWO・ステンレスソフト」 を別途購入して付け替えて使っています。

WANCHER 世界樹 サンダルウッド + ステンレスソフトニブ

ステンレス・フレックスニブはどうなのか?

ステンレス・ソフトニブの書き心地が想像以上に良かったので、次に気になっているのがステンレス製のフレックスニブです。

現在、WANCHERの公式サイトには#6 ニブ・ワンチャー真玉ストリームニブ という、ステンレスのセミフレックスサンセットニブをブレード構造に改良したフレックスニブが掲載されています。

ただし残念ながら、まだ販売前の段階。

ソフトニブが先行して発売された流れを見ると、いずれ販売される可能性は高く、楽しみに待ちたいところです。

一方、Amazonには、MONTEVERDE(モンテベルデ)製の「#6 JOWO 用ステンレス・フレックスニブ」が販売されています。

もちろん、書き心地だけで言えばPILOT Custom 743 の FA(Falcon)ニブのほうが上質であることは間違いありません。

それでも、

「スチールでどこまでフレックスを再現できるのか?」

という好奇心は大いに刺激されます。

嗚呼、物欲の神様……。


まとめ:自分だけの軟調ペンを選ぶ楽しみ

万年筆を使い続けるうちに、書き心地の違いや、字の表情の変化 に自然と目が向くようになります。

その入口として、ソフトニブ(軟調ペン) が最適です。

しなりすぎず、筆圧を抜いたときの心地よさを教えてくれる——それは現代の硬めの万年筆では得られない、万年筆らしい魅力です。

一方で、文字の表情を大きく変えたいなら フレックスニブ という選択肢があります。線の太さが変わり、日本語にも筆記体にも、筆のような抑揚を与えてくれる特別な存在です。

そして今回のような、JOWO #6 のステンレスソフトニブ は、金ペンへ進む前の“現実的で楽しいステップ”として、とても良い体験を与えてくれます。

スチールでもしなる。けれど、扱いやすい。その意外性こそが、このニブの魅力と言えるでしょう。

柔らかさを知ることは、書く楽しさを広げること でもあります。

あなたも、自分にとって心地よい一本を見つけてみてください。

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