ソフトニブとフレックスニブの違いについては「ソフトニブとフレックスニブの違い ── そしてステンレスソフトニブの実力」で書きました。
ソフトニブ(Soft Nib)は、筆圧に対する弾力があり、書き味が柔らかいニブを指します。
一方、フレックスニブ(Flex Nib)は、ペン先がしなって左右に開き、線幅に変化をつけることを目的としたニブです。
| ソフトニブ | フレックスニブ | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 書き味の柔らかさ | 線幅変化 |
| しなり | 適度 | 非常に大きい |
| 線幅変化 | 少ない | 大きい |
| 筆圧 | 軽くても心地よい | コントロールが必要 |
日本の万年筆メーカーでは、PILOTのフォルカン(FA)が、フレックスニブに最も近い存在です。Custom 743 FA は、軽く筆圧を変えるだけで線幅に変化が生まれ、味わいのある字を書くことができます。
PILOTのフォルカンのようにペン先がしなり、先端が開いて線幅が変わるのは、金ペンだからこそ実現できるものだと思っていました。
しかし調べてみると、ニブの形状や設計を工夫することで、ステンレス製でも優れたフレックスニブが作られていることを知りました。
JoWoにもステンレス製のフレックスニブがありますが、探していたときには入手できませんでした。そこで購入したのが、FPR (Fountain Pen Revolution) の Ultra Flex ニブです。
FPRはアメリカの万年筆ブランドですが、「インド製万年筆を世界へ」という理念のもと、インドのメーカーと協力して万年筆やニブを販売しています。
ステンレスフレックスニブの比較
Amazonでステンレス製フレックスニブを探してみました。以前はなかった中華万年筆などのフレックスニブも見つかりました。
| ニブ | スリット*1 | 肩の形状 | ブリーザーホール*2 | 設計の特徴 |
|---|---|---|---|---|
| FPR Ultra Flex | 非常に長い | 細く絞り込む | なし | 長いスリットと細いタイン*3で最大の線幅変化を狙う |
| Noodler's Flex | 非常に長い | やや細く絞る | 非常に小さい | シンプルな構造でタイン*3全体をしならせる |
| Monteverde OmniFlex | やや長い | 左右に開口部 | 丸穴 | JoWo #6 OmniFlex。(ニブ単体販売)左右の開口部が特徴 |
| Conklin Flex | やや長い | 左右に開口部 | ハート | 現行はJoWo #6 OmniFlex(Amazon掲載写真は初代ニブ) |
| Majohn Flex | 非常に長い | やや細く絞る | 三日月形 | 長いスリットと大型ブリーザーホールで柔軟性を確保 |
*1 スリット(Slit) とは、ペン先の中央に刻まれた細い切り割(切れ込み)のことです。筆圧をかけると、このスリットを挟んだ左右のタインが開き、インクの流れる量が増えることで線幅が太くなります。
*2 ブリーザーホール(Breather Hole) とは、ペン先のスリット終端付近に設けられた穴のことです。丸形やハート形、三日月形などメーカーによって形状はさまざまですが、現在ではインクや空気の通り道というよりも、筆圧によってスリット終端に集中する応力を分散し、ひび割れを防ぐ役割が重要と考えられています。
*3 タイン(Tine) とは、ペン先の中央にあるスリットによって左右に分かれた2本の先端部分のことです。筆圧をかけると左右のタインが開き、その隙間が広がることでインクの流れる量が増え、線幅が太くなります。
FPR Ultra Flex
FPR Ultra Flex(ウルトラフレックス)の最大の特徴は、非常に長いスリットと細く絞り込まれた肩です。一般的なニブよりもスリットを大きく延長することで、左右のタイン全体が長い板バネのようにしなりやすい構造になっています。
さらに、肩から先端にかけて細く絞り込まれた形状により、タインの剛性を低減。少ない筆圧でもペン先が大きく開き、現行のステンレス製フレックスニブの中でもトップクラスの線幅の変化を実現しています。
また、このニブには一般的なブリーザーホールがありません。 代わりにスリットをそのまま延長したシンプルな構造です。スリットを長く取ることで、タイン全体が大きくしなる構造になっています。
肩から先端に向かって複雑な肉抜き加工を施すことなく、「長いスリット」「細いタイン」「細く絞り込まれた肩」という3つの要素で柔軟性を実現しています。シンプルで合理的な設計が特徴です。
こちらは Amazon US商品なので米国発送となります。
Noodler's Flex
Noodler's(ヌードラーズ)の特徴は、根元近くまで伸びた長いスリットの先に小さなブリーザーホールがあることです。左右のタインを長くすることで、ペン先全体がしなりやすい構造にしています。
肩の絞り込みは控えめです。タインにも適度な幅が残されているため、剛性とのバランスを保ちながら柔軟性を確保しています。
非常に小さなブリーザーホールと長いスリットを採用し、タイン全体が板バネのようにしなる構造になっています。複雑な加工を行わず、スリットの長さとニブ形状だけで柔軟性を実現する、非常にシンプルなアプローチが特徴です。
そのため、極端な線幅の変化を狙うというよりは、適度な弾力を持たせたフレックスニブを目指した設計と考えられます。
こちらは Amazon US商品なので米国発送となります。
Monteverde OmniFlex
Monteverde OmniFlex(モンテベルデ・オムニフレックス)は、ドイツの JoWo社製「#6 OmniFlex」 ニブです。JoWoは世界有数の万年筆ニブメーカーであり、自社ブランドだけでなく、多くの万年筆メーカーへOEM供給を行っています。
最大の特徴は、ブリーザーホールの左右に設けられた大きな開口部です。FPR Ultra Flex やNoodler's Flex のようにスリットを極端に長くしたり、肩を細く絞り込んだりするのではなく、この開口部によって肩の剛性を下げ、ペン先がしなりやすくなるよう設計されています。
スリットは一般的な長さに抑えられ、タインにも十分な幅が残されています。そのため、ペン先全体を大きくしならせるというよりも、左右の開口部によって肩の周辺をたわみやすくする設計です。
こちらは 交換用ニブとして販売されており、Amazon US商品なので米国発送となります。
Conklin Duragraph
Conklin公式サイトでは、フレックスニブを搭載した万年筆や交換用ニブは 「JoWo製 #6 OmniFlex」 と案内されています。しかし、Amazonに掲載されている Conklin Duragraph(コンクリン・デュラグラフ) の写真は、現行のJoWo OmniFlexとは異なる形状です。
このニブについて調べてみると、Goulet「JoWo OmniFlex Nib Introduction」に JoWo製へ移行する前の Original non-JoWo OmniFlex nib が掲載されていました。この記事は2020年10月に公開されていることから、Conklin OmniFlexニブは、その後 JoWo製へ移行したものと思われます。
Amazonで購入する場合は、旧型フレックスニブが届くのか、それともJoWo製OmniFlexニブが届くのかが分かりません。購入前に販売元へ確認することをおすすめします。
Majohn Flex
Majohn(マジョーン)のフレックスニブの特徴は、長いスリットと三日月形のブリーザーホールです。一般的なニブよりも長いスリットを採用することで、左右のタインがしなりやすい構造となっています。
三日月形のブリーザーホールは、一般的な丸穴よりも開口部が大きく、スリット終端部の応力を分散しながら、長いスリットと組み合わせて柔軟性を確保しています。またスリットはブリーザーホールの先にも続いています。
三日月形の大型ブリーザーホールと長いスリットを活かしながら、柔軟性と扱いやすさのバランスを重視した設計と言えるでしょう。
こちらの商品は中国からの発送となります。
中華万年筆は、商品写真と異なるニブが届くこともあるため注意が必要です。ただし、Amazonで購入した場合は、商品説明と異なるものが届けば返品・返金の対象になります。
FPR Ultra Flex を選んだ理由
購入当時に入手可能だったステンレス製フレックスニブは、Noodler's Flex と FPR Ultra Flex の2種類でした。
どちらも非常に長いスリットを採用していますが、FPR Ultra Flex は肩の絞り込みがより大きく、タインも細く設計されています。 そのため、より大きな線幅の変化が期待できると考え、FPR Ultra Flex を選びました。
ちなみに、FPR も Noodler's も 「出荷元 / 販売元 Amazon US」となっている Amazon.com の商品です。『配送料・手数料』という欄がありますが、『国際送料無料』としてマイナスされており、アメリカからの配送にもかかわらず送料はかかりませんでした。
FPR Ambassador Black + Steel EF Ultra Flex の価格は、米国公式サイトでは62ドルです。Amazon.co.jp では、執筆時点で1万円前後で販売されています。
商品到着までは2週間ほどかかりました。海外発送なので時間はかかりますが、中華万年筆の購入経験から待ち時間には慣れています。
高級万年筆ではないため、化粧箱も非常にシンプルです。
インクカートリッジ2本とコンバーターが付属しています。インクカートリッジは、国際標準規格(Standard International)に対応しているので日本での入手も容易です。
キャップの天冠(キャップ上部)には、FPRの万年筆をモチーフにしたロゴがあしらわれています。
FPR Ultra Flexの実力
ニブには「FPR Flex EF」と刻印されています。事前に写真で確認していたとおり、非常に長いスリットと細く絞り込まれた肩が特徴です。
また、ニブの側面が大きくえぐられたようなデザインになっていて、裏側から見ると、魚のエラが張ったようにも見える独特な形状です。
ニブサイズは、PILOTの5号ニブ(Custom 74など)とほぼ同じ大きさです。
筆圧を加えて書くと、ペンの先端がたわんでスリットが開き、線幅が太くなります。
書き味は、柔らかいというよりも、ペン先の先端に近い部分が「ぐにっ」と曲がるような感覚です。筆圧をコントロールすることで線幅に変化をつけられますが、CUSTOM 743 FAのように自然に変化するというより、自分で意識してペン先を開かせる必要があります。そのため、金ペンのしなやかな弾性とは異なる、加工によって柔軟性を持たせたステンレスフレックスニブらしい書き味だと感じました。
それでも、この価格でここまでの線幅の変化を楽しめるのは大きな魅力です。
金ペンの価格が毎年のように上がり、気軽に何本も揃えられる時代ではなくなりました。
PILOTも2026年7月の価格改定で、Custom 74が44,000円、Custom Heritage 912は49,500円となりました。もはや「エントリークラスの金ペン」といえる存在ではなくなってしまったように感じます。
だからこそ、ステンレスニブには、素材ではなく設計や加工の工夫で新しい書き味を追求してほしいと思います。
FPR Ultra Flexは、その可能性を十分に感じさせてくれる一本でした。
また物欲の神が降臨
ブログを書くためにステンレスフレックスニブについて調べているうちに、Monteverde OmniFlex が気になる存在になってしまいました。
Wancherで購入した JoWo #6 ステンレスソフトニブ は、価格を考えると非常に完成度が高く、「ステンレスニブもここまで書き味を追求できるのか」と感心させられました。
同じJoWo製の OmniFlex はどんな書き味なのか試してみたくなります。
……気が付いたら、ポチってました。
届いたら、FPR Ultra Flex と JoWo OmniFlex の書き味や設計の違いについて書いてみたいと思います。
ステンレスフレックスニブの世界は、思っていた以上に奥が深いようです。



