長刀研ぎ(なぎなたとぎ)は、セーラー万年筆が誇る特殊ペン先です。刀剣の長刀に似た形状で、角度や筆圧によって線の太さや強弱を調整でき、日本語の「トメ」「ハネ」「ハライ」を美しく表現できます。
しかし、そんな魅力的なセーラーの長刀研ぎ(なぎなたとぎ)ですが、職人が一本一本手で研ぎ上げるため、気軽には手が出せない価格帯です。WANCHERの渓流ニブ / 小太刀ニブという選択肢もありますが、こちらも決して安価とは言えません。
そこで注目したのが、中国の万年筆メーカーが提供する「Long Knife Nib(ロングナイフニブ)/ Long Blade Nib(ロングブレードニブ)」です。「長刀ペン先」との記載もありますが、日本国内ではセーラー万年筆が文房具類で「長刀/NAGINATA」を商標登録しています。
英雄616 長刀風研ぎ
最初に見つけたのが英雄616 長刀風研ぎです。
英雄(ヒーロー)は、中国を代表する老舗万年筆メーカーです。1931年に創業し、長い歴史の中で、高品質で手頃な価格の万年筆を数多く生み出しています。また、1980年代にはパーカーと提携し、中国国内でパーカー万年筆の製造を請け負っていたこともあり、その技術力は広く認められています。
その影響もあってか、英雄616はパーカー51を彷彿させるデザインで、シンプルながらも洗練されたフォルムが特徴です。
商品の説明には、ペンポイントをイリジウムに交換して長刀風に研いでいるとあります。
定評ある中国のフーデットニブタイプ万年筆 英雄616を細い長刀風に。中国の工房店主が、一点一点手作業で研ぎ直しました。オリジナルから長刀風の研ぎ出し用にさらにペン先イリジウムがリチップ(交換)されています。
ペン先はとても美しく研がれており、字幅はEF:極細字、F:細字、M:中字から選べます。
しかし、ベースとなっている英雄616は非常に安価な万年筆であるため、万年筆としての基本性能、耐久性や品質に不安が残ります。「英雄616 長刀風研ぎ」のAmazonでの評価も割れています。さらにインクの充填方式がスポイト式コンバーターという点も悩ましいところです。カートリッジも使えません。
Hongdian(ホンディアン)イリジウム ロングブレード ニブ
Hongdian は、中国の万年筆メーカーで、Amazonで手頃な価格で高品質なモデルを多く展開しています。特に「Hongdian Black Forest(黒き森)」は、2万件以上のレビューを誇り、平均★4.5という高評価を得ています。
そして、Hongdianには、特殊な形状を持つ長刀風ペン先(ロングナイフ、ロングブレード ニブ)があります。また一部モデルには、安価な万年筆では珍しいイリジウム製ペンポイントやエボナイトフィードが採用されており、スムーズなインクの供給と書き味の向上が期待されます。
下表は、Amazonで見つけたHongdianの長刀風ペン先の万年筆の一覧です。
型番 | カラー | ニブ | イリジウム | エボナイト フィード |
コンバータ | 字幅 mm |
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Hongdian N23 | ブラック, ブルー | ロングナイフ | ⚪︎ | ⚪︎ | 0.5 - 1.0 | |
Hongdian N8 | レッド | ロングナイフ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | 0.5 - 1.0 |
Hongdian N8 | スノーホワイト | ロングナイフ | ⚪︎ | ⚪︎ | 0.5 - 1.0 | |
Hongdian A3 | ブラック | ロングブレード | ⚪︎ | ⚪︎ | F: 0.7 | |
Hongdian N6 | ブラック | ロングブレード | ⚪︎ | F: 0.7 | ||
Hongdian Black Forest | ブラック | ロングナイフ | ⚪︎ | 0.5 - 1.0 |
初めての中華万年筆ということもあって不安もありますが、以下の点から『Hongdian N8 ローズレッド』を選びました。
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エボナイトフィードの魅力:
スムーズなインクフローへの期待も大きいですが、WANCHERの万年筆を購入したときに、渓流ニブではペン芯がエボナイトが選択できず、初のエボナイトフィードになるというのもポイントです
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インク充填方式:
インク交換のしやすさを考えるとスポイト式ではなくコンバーター式です
簡単なインク交換方法については「象と散歩: 万年筆のインク補充術:手を汚さず、コスパよく」を参考 -
価格と性能のアンバランス:
特殊ニブの長刀風ペン先で且つペン先の素材がイリジウム、そしてエボナイトフィードの万年筆が5,000円以下というのは破壊的な価格です
デザインは二の次で、実用性を重視して選びました。
Hongdian N8 ローズレッド ロングナイフ ニブ
Hongdianのロングナイフ ニブは、非常に独特な形状が特徴です。ペンポイントは大きめで、風格があります。
WANCHERの渓流ニブと比べると、ペンポイントは若干小ぶりですが、それでも一般的な万年筆と比べれば十分に大きなサイズです。このサイズ感がもたらす柔らかな書き心地は、実際に試してみると驚きがあります。
ニブには寺院?のような刻印が施されており、エキゾチックなデザインが魅力を引き立てています。
こちらがエボナイトフィードです。見た目からではエボナイトなのかプラスチックなのかはわかりません、、。
アクリルの透明感のあるマーブル模様はキレイです。キャップのカエデも悪くはありません。
付属のコンバーターです。EU規格もよりも口が大きく内径3.4mmとあります。
なお、コンバーターは別売りもされており、カートリッジも利用可能です。さらに、キャップはスクリュー式で高い密閉性を実現しており、インクの乾燥を防いでくれます。そのため、しばらく使用しなくても問題なく筆記を再開できます。
Hongdian イリジウム ロングナイフ ニブの書き味
結果から先に言えば「期待以上の書き味」です。滑らかなインクフローと、ペン先の個性的な形状により、線に息吹を与え表現力が生まれます。
渓流ニブの滑らかな書き味には驚愕でしたが、Hongdianのイリジウム ロングナイフ ニブは、渓流ニブに及ばないものの、この価格でこの書き味には驚きました。
写真でも比較した通り、ペンポイントの大きさは渓流ニブほどではありません。しかし、この控えめなサイズが、普段使いの万年筆としての適度なダイナミックさを生み出しています。それでも、一般的なペン先と比べれば非常に表現力が豊かで、手書き文字に個性的な味わいを与えることができます。
字幅は0.5mmから1mmとありますが、中字から太字程度の印象です。以下にイリジウム ロングナイフ ニブの特徴をまとめます。
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線の太さをコントロール可能:
ペンの角度を調整するだけで、線幅を変化させることができます
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日本語との相性がよい:
横線が太く縦線が細い特性が、日本語のとめ、はね、はらいを美しく表現します
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滑らかな書き味:
インクフローが安定していて、ストレスなく筆記できます
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柔軟性はない:
鉄ニブ(スチール製)のため、柔らかさやしなりはありません
セーラーの長刀ニブ、ワンチャーの渓流ニブなどと同等の書き味は期待できませんが、特殊ニブとして非常に高い完成度を誇り、価格以上の価値を感じることができます。
まとめ
中華万年筆のHongdian N8 ローズレッド ロングナイフ ニブは、特殊ニブを搭載しながら5,000円以下という圧倒的なコストパフォーマンスを誇ります。イリジウムペンポイントやエボナイトフィードといったスペックには驚きますが、滑らかな書き味を実際に体感すると、この価格帯では考えられない満足感があります。
長刀ニブ、渓流ニブ、小太刀ニブといった日本語に特化した特殊ニブに興味はあるけど手が出せないけど、雰囲気を味わいたいという方にはオススメです。
中国からの発送なので注文してから8日後に届きました。追跡ができるので気長に待ちましょう。