PILOTのCustom Heritage 912 SM を手にして、「万年筆の書き方」を初めて意識するようになり、「書くことの楽しさ」にも惹かれていきました。
そこから、「もっと美しく書きたい」という気持ちが芽生え、行書の練習を始めることに。
軟調ペンで紙の上をなぞるように書く、そのなめらかな筆致は、行書にぴったりだと感じていました。
ところが、WANCHERの小太刀ニブに出会って、字幅の変化の面白さと表現の奥深さにハッとさせられたのです。
小太刀のしなやかな書き味を楽しんでいるときに、ふと頭をよぎったのが――「そういえば、PILOTのFA(ファルカン)って、どうなんだろう?」
フォルカン(FA)ニブとは?筆のようにしなる特殊ペン先
「フォルカン(FA)」は、パイロットが開発した特殊ペン先のひとつです。筆のようなしなりと、線に強弱をつけられる表現力で、多くの書き手に支持されています。
フォルカンニブの語源と形状
「Falcon(ファルコン)」とは、英語で「ハヤブサ」を意味します。その名の通り、ペン先はハヤブサのくちばしのように細く長く湾曲した独特の形状をしています。
この形により、スリット(ペン先の割れ目)が通常より深く、しなりやすく設計されているのが特徴です。筆圧をかけるとペン先が左右に開き、インクの出方が変化して線が太くなり、筆圧を抜けば細くなる ― そんな筆のような書き味を万年筆で実現しているのが、フォルカンニブです。
FAニブと軟調ペン先の違い
パイロットの SM(Soft Medium)や SF(Soft Fine)など、“S”のついたペン先は「軟調ペン先」と呼ばれています。
これらは、しなやかさとクッション性が特徴で、長時間の筆記でも手が疲れにくく、万年筆初心者にも扱いやすい設計です。
一方で FA(フォルカン)ニブは、筆圧をかけるとスリットが左右に大きく開き、字幅に明確な変化が生まれるように作られています。
そのしなりを活かして、線に“表情”をつけることができる、表現重視のペン先なのです。
下表は、フォルカン(FA)と軟調ペン先(SM,SFM,SF)の違いです。
項目 | FA(フォルカン)ニブ | 軟調ペン先(SM, SFM,SF) |
---|---|---|
線の強弱表現 | ◎ 筆圧で細〜太まで大きく変化する | △ 緩やかに変化するが基本は一定 |
しなり | ◎ よくしなる。スリットが大きく開く | ◯ やわらかく沈み込む感覚。スリットの開きは小さい |
書き味 | 表現力が高く繊細。筆のような筆致表現が可能 | なめらかでクッションのある書き心地。長時間筆記に向く |
扱いやすさ | △ 慣れが必要。筆圧やスピードのコントロールに注意 | ◎ 万年筆初心者でも扱いやすい |
フォルカンニブを搭載した主なモデル
フォルカン(FA)ニブを搭載できるパイロットの日本国内向けモデルは、以下の3つです:
- Custom(カスタム) 743 FA(14K・15号ニブ)
- Custom(カスタム) 742 FA(14K・10号ニブ)
- Custom Heritage(カスタム ヘリテイジ) 912 FA(14K・10号ニブ)
※「14K」とは、金の含有量を表す記号です。Kは Karat(カラット) の略で、金の純度を示す単位です。24Kを純金(100%)とし、14Kは24分の14、すなわち約58.3%の純金を含んでいることを意味します。
モデル名 | ペン先 サイズ | FAニブ 対応 | 備考 |
---|---|---|---|
Custom 743 | 15号 | ✅あり | パイロット唯一の15号 FAニブ搭載モデル。しなりが強く、線の強弱を出しやすい |
Custom 742 | 10号 | ✅あり | 743よりやわらかさは控えめ、適度なしなりと安定した筆記バランス。 |
Custom Heritage 912 | 10号 | ✅あり | 742と同じく10号FAニブ、742よりもコンパクトで軽量・細身 |
Custom 742とCustom 912は同じ10号FAニブですが、デザインが大きく異なり、書き味やバランスに微妙な違いがあります。以下はその比較表です。
項目 | Custom 742 FA | Custom Heritage 912 FA |
---|---|---|
ペン先 | 10号 FA(共通) | 10号 FA(共通) |
軸の形状 | バランス型 | ベスト型 |
最大軸径 | 約14.5mm | 約13.5mm |
全長(キャップ付き) | 約146mm(やや長め) | 約137mm |
重量(インクなし) | 約24g(やや重め) | 約19g |
筆記バランス | やや重めで後ろ寄り(胴軸側に重さあり) | やや軽く、前重心(指先に近い) |
装飾 | トラディショナルな金 | モダンでシンプルな銀 |
コンバーター | CON-70(共通) | CON-70(共通) |
行書を練習するのに最適なFAニブを持つ万年筆は?
今回、FAニブの万年筆を購入する目的は「行書を練習すること」。その観点で、3モデルを「行書適性」で比較してみました。
モデル名 | 適性 | 理由・特徴 |
---|---|---|
Custom 743 FA | 最適 | 15号FAニブは筆のようにしなり、線の強弱が自在。はね・はらいが自然に出せる。漢字の表現に最も適している。 |
Custom 742 FA | 高適性 | 10号FAニブ。適度な重量感と安定した筆記バランスで、とめ・はね・はらいが決まりやすく、行書に非常に向いている。 |
Custom Heritage 912 FA | 良い | 同じ10号FAニブ。軽快で扱いやすく、日常筆記としての行書にも適している。やや速書き向き。 |
当初は Custom 742 FA にしようかと思っていましたが、「ペン先が大きい方が軟らかい」というこれまでの経験と、PILOTの15号ニブの期待から、最終的に Custom 743 FA をポチり。
価格改定について
2024年10月1日より、パイロットの価格改定で、
- Custom 742 / Custom Heritage 912:26,400円 → 33,000円
- Custom 743:39,600円 → 44,000円
と、かなりの値上げ幅ですが、ECでは割引価格で購入可能です。
また、パイロットのCustomシリーズは量産型で品質も安定しているため、信頼できるショップであればネットでの購入でも安心です。
Custom 743 FAを使ってみて
Custom 743 FAのペン先は、軟らかすぎず、ちょうどいいしなり具合です。少し筆圧をかけることで字幅に大きく変化を出せます。
体感としては、ペン先の軟らかさは以下の順で感じられます:
Custom Heritage 912 SM < Custom 743 FA < Platinum #3776 SF(細軟)
いちばん軟らかい #3776 SFは、少しの筆圧で大きくしなりますが、字幅は大きく変化しません。
一方、742 FAは、筆圧をほんの少しかけるだけでペン先がぐっと開き、線がふわりと太くなる。力を抜けば、スッと線が細く戻る。この「入りと抜きの動き」が心地よい筆致です。
反対に、強い筆圧で書く方には不向きかもしれません。軽やかなタッチでリズムよく書くときに、その魅力が際立ちます。
普段使いは軟調ペン、表現したいときはFA
PILOTの軟調ニブ(SMやSFM)は、どちらかというと日常的な筆記やメモに向いています。少し速く書くような場面でも、ペン先がスムーズに追従してくれるのが魅力です。
そうした特性から、Custom Heritage 912 は、ジャーナリングなど日々の記録に最適な一本といえるでしょう。
それに対して、フォルカンニブは「丁寧に書こう」という気持ちにさせてくれます。書くスピードは少し落ちるけれど、その分、書くことの楽しさや奥深さを感じられる。そんなペン先です。そして字の表現力を高めてくれるのでまさに行書の練習にピッタリな万年筆です。
行書に適した万年筆とは
最後に、自分が所有している万年筆の中から、行書に適していると感じたモデルを比較してみました。
モデル名 | 線の表情 | しなり感 | 書き味の特徴 | 行書への適性 |
---|---|---|---|---|
Pilot Custom 743 FA | ◎ | ◎(筆のようにしなる) | 筆圧で線が変化、とめ・はね・はらいもダイナミックに表現できる | 最適 |
WANCHER 小太刀ニブ | ◎ | ✕(しなりはない) | 筆圧とペン先の角度で、線の変化を自在に表現 | 高適性 |
Custom Heritage 912 FA | ◯ | ◯(自然なやわらかさ) | 軽く扱いやすく、筆圧で少し線に変化が出せる | 良い |
WANCHER 渓流ニブ | ◯ | ✕(しなりはない) | やや太めの字幅で、滑らかに線の強弱が出せる | 良い |
Platinum #3776 SF | △ | ◎(ふわりとした柔らかさ) | クッション感のある柔らかさ。 | 一部向く |
行書に適した万年筆を選ぶとき、ポイントになるのは「線の変化のつけやすさ」だと感じています。
Custom 743 FAのように、しなりによって筆圧をそのまま線に反映できるモデルは、まさに筆のような感覚で書くことができます。一方、小太刀ニブのようにしなりがなくても、筆圧や角度によってダイナミックな線が引けるタイプも魅力的です。
何にしても「筆圧をかけずに書く」という、万年筆本来の書き方がベースになります。
まずは少し細めの軟調ペンで、軟らかいペン先の感覚に慣れるところから始めるのが良いのではないでしょうか。
やっぱり一本差しのケースを
新しく迎えたCustom 743 FAにも、以前こちらで紹介したFREESEの一本差し万年筆ケースを購入しました。
革の品質には多少のばらつきがありますが、1,000円とは思えないクオリティです。裏地には肌触りのよい柔らかなスエードが使われていて、しっかりと万年筆を守ってくれます。作りはシンプルですが、見た目も悪くありません。
ディープグリーン(プロギア)、ブラウン(#3776)、ブルー(Heritage 912)、レッド(Custom67)と使ってきたので、今回はブラックを選びました。