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Post Date:2025年9月13日 

普段使いの一本に+表現力 ― PILOT エラボー

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟

Custom 743 FA(フォルカン)を購入して、「次のELABO(エラボー)で、軟調ペン先は最後にしよう」と考えていました。

そんな折、PILOTが2025年10月1日から価格改定を行うというニュースが入り、エラボー(樹脂軸)も6,000円の値上げ対象に。

現在発売されているエラボーは3代目で、2009年に登場しました。発売当初の価格は 18,000円(税別)で、2024年の価格改定まで15年間も価格は据え置かれていました。

しかしそこからわずか2年の間に3度の価格改定が行われ、2025年10月1日に 32,000円(税別)、税込では35,200円となります、、。

3代目エラボー価格遷移
税抜 消費税率 税込
2009年 3代目エラボー 18,000円 5% 18,900円
2014年04月01日 18,000円 8% 19,440円
2019年10月01日 18,000円 10% 19,800円
2024年01月01日 22,000円 10% 24,200円
2024年10月01日 26,000円 10% 28,600円
2025年10月01日 32,000円 10% 35,200円

値上げ前のいまをチャンスと捉え、思い切ってエラボーを駆け込みで手に入れました。


PILOT ソフト調ニブの系譜

PILOTは「ソフトニブ」と呼ばれる軟調ペン先を多数ラインナップしています。

代表的なのは SF(細字軟)・SFM(中細字軟)・SM(中字軟) といったタイプで、通常のペン先にクッション性のある『しなやかさ』を加えた設計になっています。

軟らかすぎないため、普段の筆記や長時間の使用にも最適で、扱いやすい軟調ニブです。

一方で、FA(Falcon nib)エラボー専用ニブ は、筆圧を加えることでペン先が大きくしなり、細字から太字まで自在に変化させることができます。

「はね・はらい・とめ」といった毛筆的な表現を得意とし、通常のソフト調ニブよりもはるかに豊かな表現力を発揮します。


パイロット軟調ペン先(SF・SFM・SM)の特徴

パイロットの軟調ペン先(SF・SFM・SMなど)は、基本的な形状は通常のニブと同じですが、わずかに柔らかさを加えた設計になっています。

Custom74/742/743、Custom Heritage 912 などで選択できます。

PILOTソフト調のペン種

フォルカンやエラボーのように大きくしなるわけではなく、柔らかいタッチで心地よい筆記感が魅力です。字幅のバリエーションも豊富で、細字から中字、太字まで用途に合わせて選びやすく、日常的な筆記に適しています。

ダイナミック表現力を求めるというよりは、普段の書き心地をより快適にしたい人にぴったりの選択肢です。

さらに、ペン先が適度にしなることで長時間の筆記でも手が疲れにくく、手紙やノート、仕事での使用にも安心して使える点が評価されています。

つまり、パイロットのソフトニブは「表現力」よりも「心地よさ」を重視する人にとって、最も扱いやすい軟調ペン先だと言えます。

金ペン軟調万年筆については下記の記事をご覧ください。


FA(フォルカン)ニブの特徴(Custom 743/742など)

フォルカンは、Custom 743では15号、742では10号という大きなサイズのペン先を持ち、しなり幅が非常に大きいのが特徴です。

ペン先に字幅のバリエーションはなく、筆圧によって細字から太字まで自在に操ることができます。「はね」「はらい」「とめ」といった毛筆のような表現を得意とし、文字に力強さや抑揚を与えることができます。

一方で、インクフローが非常に豊かであるため、紙質によってはにじみや裏抜けが起こりやすい点には注意が必要です。

また、表現力の高さは大きな魅力ですが、日常の細かいメモや長時間の筆記では扱いにくさを感じることもあります。

フォルカンは、実用性よりも表現力を優先する書き手に向いた、個性的なペン先です。

Custom 743 FAニブ(フォルカン)についてのレビューはこちらをご覧ください。


エラボーの特徴

エラボーには金属軸と樹脂軸の2種類がありますが、どちらもエラボー専用に設計されたニブで同じものを備えています。

エラボーは、フォルカンほど大きなしなりはなく、柔らかさはやや控えめですが、その分コントロールしやすく安定感のある書き味が特徴です。

字幅のバリエーションも豊富で、SEF(極細)・SF(細字)・SM(中字)・SB(太字) の中から用途や好みに合わせて選ぶことができます。

普段使いで安定した筆記を保ちながら、必要なときには文字に表現力を加えることができるため、日常と表現性をバランスよく両立できる一本といえるでしょう。

また、フォルカンに比べて扱いやすいため、初心者から中級者まで幅広い層におすすめできるのも魅力です。

エラボーは、ソフトニブとフォルカンの中間的な位置付けにあり、実用性と表現力の両方を求める人にとって最適な選択肢となります。


エラボーのペン先形状

エラボーのペン先は、その形状に大きな特徴があります。海外ではファルコン(はやぶさ)という名前で販売されていますが、根本から先端にかけて大きく湾曲していて、中程で隆起する、猛禽のクチバシのような独特の形状に加工されています。

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟のペン先

ペン芯はフラットで櫛溝がないのが特徴です。

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟のペン芯

筆圧を加えるとニブがしなるように開き、細字から太字まで滑らかに変化させることができ、毛筆のような抑揚ある筆跡を生み出します。

さらに、中央の切り割り(スリット)が通常のペン先よりも長く設計されている点も特徴的です。この長いスリットによって柔軟性が高まり、軽い力でも『しなり』やすくなっています。

PILOT ELABO 樹脂軸 細軟のスリット

ただし、フォルカンほどの極端な動きではなく、適度な抑えが効いているため、安定した書き味を保てるのがエラボーならではの魅力です。

フォルカンとの比較です。同じしなりを作り出すニブですが形状は大きく異なります。

FAニブとELABOの比較

実際にエラボーを使ってみて(レビュー)

エラボーの第一印象は「華奢?」というものでした。他のパイロットの万年筆と比べると、やや細く短く、握った感触もスリムに感じます。

万年筆軸径長さ重さ
ELABOφ14.4mm137mm18.0g
Custom74φ14.7mm143mm17.4g
Custom Heritage912φ15.7mm137mm20.0g
Custom 743φ15.7mm149mm25.0g

特にフォルムが似ているCustom Heritage912と比べるとかなり痩せっぽちです。

Custom Heritage 912 と ELABO の比較

肝心の書き味ですが、フォルカンはしなり幅が大きく、筆圧のコントロール次第で線が劇的に変化します。一方エラボーは、そのダイナミックさが抑えられており、「しなるけれど書きやすい」万年筆という印象です。

また、軟調ペン先のSM(中字軟)と比べると、エラボーには明確なしなりがあり、字に表現力を加えられます。

フォルカンやソフトニブと比べると、エラボーの魅力は「柔らかさ」「表現力の幅」「扱いやすさ」のバランスにあります。

軽く筆圧を加えると線に表情が生まれますが、フォルカンほどの大きな変化ではなく、安心してコントロールできる範囲に収まっています。

インクフローも過剰ではなく安定しており、長時間の筆記でも疲れにくいのは大きな利点です。

フォルカンが「豊かな表現力を発揮する一本」だとすれば、エラボーは「日常の筆跡に静かな彩りを添える一本」と言えるでしょう。

エラボーは、手帳やノートなど、細かい字を多く書く毎日の筆記にピッタリです。


どんな人におすすめか

エラボーは、万年筆らしい「筆圧をかけない書き方」ができないと扱いづらさを感じる万年筆です。そのため、まったくの初心者よりも、ある程度万年筆に慣れた人に適しています。

ただし、金ペンの価格高騰を踏まえると、万年筆デビューをエラボーで飾るという選択肢も十分に考えられます。その場合は、まず「万年筆の正しい持ち方」を意識することから始めてください。

ソフトニブ以上にニュアンスを表現できる一方で、フォルカンほど大きなしなりはないため、ノートや手帳など日常の筆記で自然に文字に味わいを加えられるのが魅力です。

また、「フォルカン(FAニブ)が気になるけれど、自分に使いこなせるかが不安」という人にとって、適度な表現力で扱いやすいエラボーは最適な選択肢です。


万年筆の持ち方

筆圧をかけない書き方をするには、万年筆を軽く持つことが大切です。強く握るのではなく、人差し指と親指で軽く支えるのが正しい持ち方です。

万年筆の持ち方をGPT5で生成してみました。

万年筆の正しい持ち方
万年筆の正しい持ち方:Created by GPT5
  1. 手の力を抜いて手首を90°にする
  2. 中指の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印は上向きになるように
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

下の例では、ペンを持つ指に力が入りすぎて、人差し指が反り返ってしまっています。実は、自分も以前はこのような持ち方をして書くときは力が入っていました…。

ペンを持つ手に力が入ってしまっている例:Created by GPT5

書道家の大江静芳氏の動画を参考に、万年筆の正しい持ち方を身につけましょう。


まとめ 〜普段使いの一本に+表現力〜

Custom 743 FAのようなダイナミックな表現力も魅力的ですが、エラボーは日常に優しく彩りを添えてくれます。今回は手帳用の万年筆として細字を選んだため、字幅の変化はさらに控えめに感じます。

ELABOの筆致

まさに「普段使いの一本に+表現力」という言葉がふさわしい存在だと感じました。

ソフトニブよりも一歩深い表現を楽しみたい人、フォルカンほどのクセは要らないけれど柔らかさを求めたい人にとって、エラボーはちょうど良い答えになるでしょう。

普段使いの一本にさりげない表現力を加えてくれる ーー それがPILOT ELABO(エラボー)です。

Post Date:2025年9月7日 

軟らかさと抑揚の世界、底の見えない万年筆沼の怖さ

象と散歩:軟らかさと抑揚の世界、底の見えない万年筆沼

万年筆を使い始めたころ、ボールペンと同じように強い筆圧で書き、F(細字)やEF(極細字)の硬いペン先を好んでいました。

しかし、中字の万年筆が生み出すインクの豊かさに出会い、軟らかいペン先のしなやかさに触れることで、筆圧をかけずに書ける万年筆の魅力を知りました。

そして今では、字に抑揚をつけることで、拙いながらも「行書」を嗜むようになりました。

そんな自分の万年筆との遍歴を振り返ってみたいと思います。


強い筆圧で書く細字の万年筆

万年筆を使い始めたころは、EF(極細字)やF(細字)の硬いペン先を好んでいました。

長年、FABER-CASTELL Ambition のボールペンを使っていたこともあり、最初の一本も同じ Ambition の EF(極細) にしました。

もう一本は、LAMY Safari F(細字)です。

LAMY Safari とFaber-Castell Ambition

何も、強い筆圧で細い字が書けるので、違和感なくボールペンから万年筆へ移行でき、細い軸も三角グリップも「強く握る」自分の書き方に合っていました。

この頃使っていた万年筆は、ボールペンの代替にすぎませんでした。


中字で知ったインクの豊かさ

万年筆の素晴らしさに気が付くきっかけとなったのは、MDノートを買いに行ったときに「カワイイ」と、衝動買いをしたMDつけペンでした。実は、これが中字との出会いでした。

MDつけペンのペン先

普段使っている極細字では感じられなかった、インクの濃淡や線の丸みが紙の上に現れ、書いた文字に「味わい」が生まれることに驚きました。

最初は「太すぎるのでは」と思った中字でしたが、書いてみるとむしろバランスが良く、読みやすさを保ちながら表情が豊かになることに気づきました。

万年筆が、初めて「表情を生み出す道具」になりました。


軟調ペン先と筆圧をかけない書き方

万年筆について調べるうちに、「金ペン」や「軟調ペン先」という言葉に強く惹かれました。

最初に手にしたのは、 PILOT カスタムヘリテイジ 912 SM(Soft Medium)、軟調ペン先のしなる感覚に触れ、書き味の柔らかさに驚きました。

Custom Heritage 912 SM

それまでの私はボールペンと同じように強い筆圧で書いていましたが、軟調ペン先だと筆圧が強いと逆に書きづらくなってしまいます。

そのため自然と「力を抜いて書く」ことを覚え、筆圧をかけずに文字を書く心地よさを知りました。

万年筆は軽く持ち、筆圧をかけずに書くことでこそ、万年筆らしい書き味となり、「楽に」書ける優れた筆記具だと実感しました。

続いて選んだのは、柔らかいという金の特徴を活かしたSAILOR プロフェッショナルギア 中字

SALOR PROFESSIONAL GEAR M

さらに、PLATINUM #3776 センチュリー SF(細軟)と、軟らかなペン先を次々と試していきました。

ペン先には、#3776と富士山を彷彿させるライン、そして可愛らしいハート型のハート穴です。

Platinum #3776 Century Soft Fine

正しい万年筆の持ち方

こちらは再掲となりますが、万年筆で筆圧をかけずに書くためには、ボールペンとは異なる持ち方を習得する必要があります。

ChatGPTに万年筆の正しい持ち方を指示して描いてもらった絵がこちらです。

万年筆の正しい持ち方
Created by GPT5

日本の万年筆の多くは、キャップを後ろに挿して使うことで、筆記時のバランスが良くなるように設計されています。そのため、書く際にはキャップを後ろに挿すのがおすすめです。

万年筆の持ち方

  1. 手の力を抜いて手首を90°にする
  2. 中指の横腹親指と人差し指の間に万年筆をバランスよく乗せる
  3. ペン先の刻印は上向きになるように
  4. 親指人差し指で軽く支える
  5. ペン先が紙に触れるまで、手首を内側に曲げる

と、こんな感じですが、百聞は一見に如かず。書道家の大江静芳氏の動画を参考に、正しい持ち方を身につけましょう。

この持ち方であれば、自然と筆圧をかけずに書けるようになります。

そしてそれこそが、万年筆らしい書き味を楽しむ第一歩です。


字に抑揚をつける楽しさ

軟調ペン先で「力を抜いて書く」ことを覚え、「行書」について学び始めると、文字に表情をつけたいと思うようになりました。

そうして手にしたのが、WANCHERの渓流ニブ小太刀ニブです。

渓流ニブと小太刀ニブの比較

渓流ニブも小太刀ニブも鉄ニブ(ステンレス製)なので "しなり" はありませんが、ペン先の角度によって線の太さに変化ができます。

渓流ニブのカマボコ型のペンポイントは、立てて書けば細く、寝かせれば太く──まるで毛筆のように自然な抑揚が生まれます。

一方の小太刀ニブは、矢尻のように尖れたペン先が、渓流ニブよりシャープで繊細な表現を生み出します。

渓流ニブと小太刀ニブの文字比較

上が渓流ニブ、下が小太刀ニブで書いていますが、共に鉄ニブとは思えないほどの表現力の幅に驚かされます。

「ただ書くだけ」だった文字が、抑揚のある筆跡へと変わるので、行書の練習にも大きな助けとなっています。


筆圧で表現力を:フォルカン

渓流ニブや小太刀ニブは「ペン先の角度による抑揚」でしたが、フォルカンは、金ペンのしなやかさを活かし、細い線から太い線まで筆圧によって線の表情を変えるペン先です。

10号と15号のペン先で悩みましたが、「えーいっ!」とPILOT カスタム 743 FAを購入。

PILOT Custom 743 Folcan

軟調ペンはペン先がしなっても、スリット(ペン先の割れ目)があまり大きく開かないようになっていますが、フォルカンは逆に大きくスリットが開くような設計になっています。

力を抜けば極細の線が、ぐっと筆圧をかければ毛筆のような太い線が ── まるで筆の穂先を操るようなダイナミックな表現が可能です。

ただし、その分コントロールは難しい、、。

まさに「扱いの難しいがゆえに、表現力の幅が大きい」ペン先でした。

これで自分の万年筆の旅も一区切りと思いました。
……しかし、いちどハマった万年筆沼の深みは底知れません……。

#3776 SF, ヘリテイジ912 SM, カスタム743 FA, プロギアM

終わりではなく次へ?

中字の万年筆だと細かい字を書くと字が潰れてしまいます。

なので、手帳に書くときは PLATINUM #3776 センチュリー SF(細軟) を使うことが多いです。

だったら、細字の実用性に加えて、柔らかさと抑揚を両立した万年筆があっても悪くはない。

PILOT ELABO(エラボー) が、気になります、

エラボーは、フォルカンほど極端にペン先が開かず、日常の筆記にも使いやすいと評判です。
それでいて軟調らしい柔らかさがあり、筆圧を少し変えるだけで抑揚のある線が生まれます。

エラボーは、字幅が、EF、F、M、Bから選べるということからも、フォルカンよりペン先の割れ目が開かないということがわかります。

手帳に書くのには、エラーボーの細字がいいかも。

やっぱり、次の一本が気になってしまいます……。
終わりのない万年筆探しは、まだまだ続きそうです。

Post Date:2025年8月17日 

凛とした沈香、やさしい白檀 ― 香りがもたらす夏の涼

灯(TOMORI) 沈香と白檀

「香る涼 - お香で夏の暑さを凌ぐ」 では、杉や檜など、爽やかな木の香りを紹介しました。 暑い日には、こうした軽やかな香りがよく似合います。

けれど──沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)のような香木の、凛とした深い香りも、静けさの中に涼しさを見出せます

お寺の日常は、白檀の香りですが、厳かな場では沈香が焚かれ、静けさと緊張感を添えます。

白檀の香りは、やわらかな甘さの奥に、微かなほろ苦さを秘めた香り。乳香のようなまろみと、木肌の渋みが、空間を穏やかに包みます。

一方、沈香(じんこう)の香りは、重厚さと透明感が同居しています。

ほのかに甘い樹脂の香りに、煙のような静けさと、時折感じる清涼感が重なり合い、心の奥を静かに鎮めます。

深い森の木陰に差し込む一筋の光のように、涼やかさを伴った落ち着きをもたらす香りです。

白檀や沈香といった香木は、仏教文化とともに日本に伝わり、長い年月を経て“日本の伝統的な香り”となりました。

そんな白檀と沈香の香りを、夏の涼を楽しむひとときに添えてみるのも素敵です。


香木とはなにか?

「香木(こうぼく)」とは、焚くことで芳しい香りを放つ天然の木のことをいいます。代表的なものとして、沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)、伽羅(きゃら)などがあります。

特に沈香は、東南アジアに自生するジンチョウゲ科の樹木が、傷を負ったときに分泌する樹脂が、長い年月と高温多湿の環境の中で熟成されて生まれる、非常に稀で神秘的な香木です。

その沈香の中でも最上級とされる特別な存在が、伽羅です。わずかな香りだけで人を魅了し、古来より最高の香木として尊ばれてきました。

伽羅は、沈香が生まれる自然条件の中でもさらに限られた環境と、長い年月の重なりによってのみ生まれるため、その香りは「気品」「幽玄」「奥深さ」と形容されます。

次に白檀ですが、木そのものに香気成分(サンタロール類)を持ち、木の中心部分に甘くやさしい香り、その奥にほのかなほろ苦さを蓄えています。

これらの香木は、古来より香道や仏教儀式など、静かに心をととのえる香りとして用いられてきました。現代では、香木を細かく粉末にし、他の天然香料と練り合わせて作られる「お香」の原料としても広く使われています。

香木は、ただ香るだけの存在ではなく、悠久の時間が育んだ“香りの結晶”とも言えるでしょう。


沈香の涼しさ - VECThill「灯 沈香」

沈香の香りには、ふしぎな静けさがあります。甘さを抑えたスモーキーな落ち着きのある香りは、心を鎮め、夏の暑さに静かな涼をもたらしてくれます。

灯(TOMORI) 沈香(ANGARWOOD)

焚き進むにつれて、淡い甘さが余韻となり、空気の奥に澄んだ清涼感を残します。

VECThill(ベクティル)の『灯(TOMORI) 沈香』は、まさにこの沈香の持つ涼やかさを香りとして表現したお香です。

深みのある甘さと透明感をそなえ、ゆるやかに立ちのぼる煙が、部屋全体を静謐な空気で満たしてくれます。

夏の朝、静かに回るDC扇風機。その柔らかな風にのって沈香の香りが漂えば、これから始まる一日のあわただしさの前に、心を落ち着ける静かなひとときを味わえます。

静かな涼をもたらす沈香の香りを、ぜひ日常に。


白檀のやさしさ - VECThill『灯 白檀』

白檀の香りには、やわらかな甘さと、ほのかなほろ苦さが同居しています。その奥に潜むまろやかさが、夏の空気をやさしく和らげ、心に安らぎの涼をもたらしてくれます。

灯(TOMORI) 白檀(SANDALWOOD)

VECThill(ベクティル)の『灯(TOMORI) 白檀』は、そんな白檀の魅力をシンプルに表現したお香です。ほっと息をつけるような落ち着きと、奥行きのある甘さが、日常の中に静かな休息を与えてくれます。

夏の午後、窓から差し込む光の中で、ふと漂う白檀の香り。それは、あわただしい時間の流れをやさしく緩め、縁側で風鈴を聴きながら過ごすような、静かなひとときを運んでくれます。

やさしい甘さが心を和らげる白檀の香りも、日常に添えてみるのも素敵です。


玄檀の深み - VECThill『灯 玄檀』

VECThill(ベクティル)の「灯」シリーズには、白檀をベースにした「玄檀」があります。

灯(TOMORI) 玄檀(SANDALWOOD)

白檀の甘く上品な香りを基調にしながら、そこに深みとわずかなスパイスを加えた香りです。沈香ほどスモーキーではなく、沈香と白檀の中間に位置しますが、どちらかといえば白檀寄りの印象。やわらかな甘さの奥に、落ち着いた奥行きを感じさせます。

個人的には沈香の香りが一番好きですが、自分好みの香りを見つけてください。

名称 主な原料・香木 香りの印象 トーンの特徴
白檀
(びゃくだん)
サンダルウッド やわらかく甘い香り。ほのかなほろ苦さとまろみをもつ。 温かみ・穏やかさ・包容感
玄檀
(げんだん)
サンダルウッド 白檀に比べて落ち着きがあり、渋みと静けさを感じる香調。 深み・静寂・重厚
沈香
(じんこう)
アガーウッド スモーキーで甘さを抑えた香り。清涼感と透明感がある。 凛とした・幽玄・涼やか

不揃いの美徳 ― 職人の想いを無駄にしない

お香づくりの過程では、どうしても形が少し曲がったり、不揃いな品が生まれてしまいます。

見た目は不格好でも、焚けば沈香や白檀の香りは変わらずに広がります。

そうした品を無駄にせず届けるために用意されたのが「訳あり品」、一つひとつ職人の手で仕上げられた香りを、気軽に楽しめる価格で提供されています。

環境への配慮と、作り手の想いを大切にする選択。不揃いだからこその一期一会。そんな香りのひとときを、心に留めてみてください。

いつも販売されているわけではないので、見かけたときには是非。


横置きタイプのお香立てを

こちらは再掲になりますが、お香盾は、灰が散らばりにくい横置きタイプがおすすめです。

お香の灰はとても軽く、立てて焚いた場合は、高さの分だけ空気の流れに影響されやすくなるので、灰が受け皿の外に飛び出してしまい、掃除が大変になります

横置きタイプなら、お香の下に受け皿が沿うように配置されるため、灰をしっかりとキャッチできます。後片付けも簡単なので、日常使いにとても便利です。

また、横置きにすると、煙が水平方向にゆるやかに広がり扇風機の弱風にもふわりと乗って、自然なかたちで空間に香りが溶け込みます

普段、部屋に置いて使っているお香立ては、本来は縦置きタイプで、フタ付きのお香入れとして販売されていたものですが、お香を斜めに挿して焚き、お香入れの部分を灰受けとして活用しています。

また灰が溜まれば直に横に線香を置くこともできます。

そんな工夫をするよりも、ステンレス製の網などの上にお香を横に寝かせてセットする“完全横置きタイプ”の香立てなら、灰が横に落ちる心配もなく、安全性にも優れています。

また、お香を最後まで使い切れるので経済的です。

蓋つきの構造なら、部屋に出して置いても安心。扱いやすさと安全性を兼ね備えた、日常使いにぴったりのお香立てです。

値段からL CLOVERを選びましたが、かなり存在感があります(L24cm W5cm H3.2cm)。難燃綿も付属してますが、ステンレス網の方が掃除も楽です。

蓋をしてお香を焚くことができるので、部屋使いでも安心です。


香りで夏を愉しむ

強い日差しと蒸し暑さのなかでも、香りは心にやさしい涼を運んでくれます。

凛とした沈香の静けさ、やさしい白檀の甘さ。どちらも古くから人々に愛され、いまも私たちの暮らしに寄り添い続けています。

夏の暑い午後に扇風機の風にのせて香りを漂わせるもよし、朝や夜の静寂に添えてみるもよし。

香りは、夏を涼やかに過ごすための小さな工夫であり、ささやかな贅沢です。

香木の香りとともに、夏を愉しんでみませんか。

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